定年制が廃止されたらどうなる?「定年」に縛られない働き方とは

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少子高齢化を見据えた政府の「高年齢者雇用安定施策」により、企業の「定年」に変化が起きています。定年年齢以降の継続雇用制度の導入や定年年齢の引き上げとともに推奨されているのが「定年の廃止」です。本記事では定年の廃止をめぐる社会の状況などの疑問をわかりやすく解説します。

  • 【この記事を読んでわかること】
  • 定年が廃止されると、年齢での一律退職がなくなり、労働者は自らの申し出などによって退職する
  • 定年の廃止は国の推進する高年齢者雇用安定施策の一つ
  • 高年齢者雇用安定施策として定年を廃止する企業はまだ多くないが増えている
  • 定年廃止以外にも、年齢に関わらず活躍できる働き方はいくつかある

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定年制度と定年制廃止の影響

定年制が廃止されたらどうなる?「定年」に縛られない働き方とは

定年退職の制度は、日本企業の約96%が導入しています。日本の雇用慣行に馴染んでいる「定年」ですが、今これを廃止する企業が少しずつ増えています。

定年が廃止されると、具体的にはどういう変化があるか見ていきましょう。

定年は一定の年齢で雇用契約を解除する制度

定年は、一定の年齢に達したことを理由として雇用契約が解除され、それにより労働者が退職する制度です。定年の年齢は60歳を下回らない範囲で事業主が設定できます(2022年10月現在)。

会社が定年を定める場合は、就業規則に規定を設けるか、就業規則がない場合には労働者との個別の雇用契約書に記載する必要があります。

定年制度の機能

定年は、企業等が任意で定めるもので、法律上は定める必要がありません。しかし日本では、一度入社したら同一企業で定年まで雇用され続けるという終身雇用の慣行があり、定年制度が広く普及しています。

また、企業に正社員として採用される場合は通常「期間の定めのない労働契約」を結びます。定年制がなければ、年齢による雇用契約の自動解除は行われず、労働者が何歳になっても働くことになります。

定年制には、期間の定めのない雇用契約に、あらかじめ合意された区切りを設定しておく機能があります。

定年制が廃止された場合の退職方法

定年制度を廃止した場合、労働者の退職は以下の方法で行われます。

・労働者の申し出による自己都合退職
・労働者・会社双方の合意による合意退職
・会社の通告による解雇(普通解雇・整理解雇・懲戒解雇)
・その他(労働者の死亡、契約期間の満了など)

参考:奈良県>8. 退職・解雇

企業が定年制度を廃止する場合の注意点

就業規定等に定年を定めている企業が定年制度を廃止する場合、就業規程の変更手続きが必要になります。就業規程の変更で注意したいのが、労働者にとって労働条件の不利益な変更があるかどうかです。

今ある定年を廃止すること自体は労働者にとって不利益変更にはなりません。しかし、企業によっては、定年廃止による人件費増加を抑える目的で「退職金制度」や「賃金制度」を同時に変更することがあります。

賃金等の労働条件の引き下げは就業規程の不利益変更とみなされるため、慎重に実施する必要があります。必要に応じて社会保険労務士などの専門家への相談を検討するといいでしょう。

参考:Web労政時報「定年延長を行う際に、これと引き換えに退職金の支給条件を引き下げられることは認められますか?」

定年の廃止は国の少子高齢化対策の一つ

定年制が廃止されたらどうなる?「定年」に縛られない働き方とは

企業における定年の廃止は、少子高齢化対策の一つとして注目されています。

総人口および総人口における65歳以下の割合が減少している日本では、将来の労働力の確保が大きな課題となっています。

国は、「高年齢者雇用安定法」の改正を通じ、健康で働く意欲のある高年齢者を労働力として活用する施策を推進しています。

参考:厚生労働省白書2019年

高年齢者雇用安定法による高齢者雇用維持の推進

2013年に施行された「改正高年齢者雇用安定法」は、希望する全ての従業員を65歳まで雇用することを企業に義務付けました。

具体的には、定年を65歳未満に定める事業主は、下記いずれかの措置を講じる必要があります。

  1. 65歳までの定年の引上げ
  2. 65歳までの継続雇用制度の導入
  3. 定年の廃止

続いて、2021年の改正では、従業員の70歳までの就業機会の確保が努力義務とされました。

具体的には、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主または70歳未満までの継続雇用制度を導入している事業主は、下記のいずれかの措置を講じる努力義務があります。

1.70歳までの定年の引上げ
 2.70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
 (他の事業主によるものを含む)
 3.定年制を廃止
 4.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
 5.70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

定年の廃止は、いずれの改正においても、企業が選択できる高年齢者雇用安定化措置として位置付けられています。

参考:高年齢者の雇用 |厚生労働省

定年廃止企業は少ないものの微増傾向

厚生労働省が毎年行っている調査によれば、定年の廃止を行う企業の数は、少しずつ増えてきています。しかし、2022年データでも、定年廃止企業は全体の4%程度。現状においては、まだほとんどの企業で定年制度が導入されていると言えるでしょう。

定年廃止企業の数 時系列データ
平成30年(2018年)4,113社(回答企業全体の2.6%)
令和1年(2019年)4,297社(回答企業全体の2.7%)
令和2年(2020年)4,468社(回答企業全体の2.7%)
令和3年(2021年)9,190社(回答企業全体の4.0%)

参考:令和3年「高年齢者雇用状況等報告」|厚生労働省

▼定年について詳しく知りたい方はこちら

世界と日本における定年廃止の動き

定年制が廃止されたらどうなる?「定年」に縛られない働き方とは

国外に目を向けてみると、世界には定年制が禁止・または存在しない国もあります。 世界と日本における定年制度をめぐる動きを見てみましょう。

世界には定年制のない国も多い

アメリカでは、雇い入れや労働条件などに関して年齢を理由とした差別を禁じる法律があり、一部職業を除き定年制は禁止となっています。そのため、リタイアの年齢は労働者が個人の事情に応じて自ら決め、申し出る仕組みです。

同じく、カナダ、イギリス、オーストラリアなども消防士などの一部の職種を除いては、原則として定年制度は禁止されています。一方、ドイツやフランスでは定年制は認められています。ただし、昨今は高齢化などを背景にした定年年齢引き上げの動きがあります。

経緯はそれぞれですが、少子高齢化が進む先進諸国では定年年齢は引き上げ・廃止の流れにあると言えるでしょう。

日本での定年廃止は中小企業が中心

日本における定年廃止の動きは始まったばかりですが、中小企業を中心に少しずつ広まっています。日本での定年廃止の動きを見てみましょう。

定年廃止は大企業に比べ中小企業での導入が顕著

2022年の厚生労働省の調査では、66歳以上まで働ける制度のある企業のうち「定年制の廃止」を導入した割合を次のように報告しています。

・301人以上の規模の大企業 定年制廃止の割合は全体の0.6%
・300人以下の中小企業 定年制廃止の割合は全体の4.2%

参考:令和3年「高年齢者雇用状況等報告」|厚生労働省

中小企業の定年廃止の背景は安定人材の確保

少子高齢化が進むと、採用市場では人材獲得の競争激化が起こると予想されています。待遇・福利厚生や採用資金の面で大手企業に勝てない中小企業は、安定した人材の確保がこれまで以上に難しくなります。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による2020年の調査では、企業が高齢者雇用の取り組みを行う理由の第1位が「高齢社員に働いてもらうことにより、人手を確保するため」でした。

労働者一人の重みがより大きな中小企業においては、今いる労働者にできる限り長く働いてもらうことが労働力の維持につながると言えるでしょう。

参考:65歳超先進企業に学ぶ「定年延長・継続雇用延長の効果と課題」|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

大手企業でも導入が始まる

アルミサッシ製造販売の大手・YKKAP社などを擁するYKKグループは、国内に適用していた定年制を2022年3月期から廃止すると発表して話題を呼びました。

シニアの経験・ノウハウなどを現場管理に活かすほか、他社を定年退職した優秀なシニア人材の積極採用も視野に入れるとしています。管理職年齢の引き下げを約束するなど、高齢者雇用で大手企業が抱える課題についても取り組みを行なう予定です。

参考:日経転職版:「定年廃止、異業種人材の受け皿に」YKKAP・堀社長

定年制度が適用されない働き方

定年制が廃止されたらどうなる?「定年」に縛られない働き方とは

企業の制度とは別に、元気なうちは生涯現役で働きたいという個人も、最近は増えてきています。定年に縛られない働き方には、下記のようなものがあります。

①自ら事業を行う場合や業務委託・請負
②有期雇用契約で働く契約社員・嘱託社員
③短時間で働くパートタイマーやアルバイト

それぞれについて説明します。

①自ら事業を行う場合や業務委託・請負

個人事業主となる場合や会社を始める場合はリタイアのタイミングは自ら決定できます。また、業務委託・請負などは役割や成果物の提供を行う契約であるため、受注者の年齢に制限はありません。

②有期雇用契約で働く契約社員・嘱託社員

定年退職は雇用期間に定めのない人に適用される制度です。契約社員や嘱託などの期間に定めのある有期雇用契約で働く場合、通常、その期間中に定年退職となることはありません。

有期雇用契約の更新条件に一定の年齢を定め、実質的な定年制をとっている場合もありますが、働ける期間は正社員よりも長めの設定となっていることが多いでしょう。

③短時間で働くパートタイマーやアルバイト

正社員と比べ、勤務時間や業務を限定して働くパートタイマーやアルバイトには、定年制度を設けていない会社もあります。企業の中には、高年齢労働者の雇用の受け皿として位置付けているところも多く、多様な働き方ができるのもポイントです。

▼定年70歳時代について詳しく知りたい方はこちら

変化に対応できるキャリアプランを持つ

日本企業の雇用慣行として馴染んできた「定年退職」。しかし、そのあり方も少子高齢化や社会的要請などによって変化を迫られています。
定年が廃止されると、年齢に縛られずに働くことができるようになる一方、定年を目標に働いてきた人にとってはご自身の将来を見つめ直す必要も出てきます。ご自身の会社の高齢者雇用の取り組みについて注視するとともに、変化に対応できるキャリアプランを持っておくと安心です。

▼40代の方におすすめの記事はこちら

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執筆者
阿部雅子
人事/キャリアコンサルタント
人事担当として約12年強、採用から人事管理、退職までをサポート。業界はIT系スタートアップ/ブライダル/政府系研究機関等。国家資格キャリアコンサルタント。中小企業での各種雇用調整助成金の受給やコンプライアンスのための規程整備等の経験が豊富。