定年制度の年齢推移を解説!定年延長の背景と定年制度の未来図
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日本では2025年4月よりすべての企業で希望者に対する65歳定年制が義務化されます。
現在、定年といえば60代というイメージが強いですが、かつては55歳を定年とする企業が主流であり、その年齢は時代とともに推移してきました。
今回は定年の年齢推移やその背景、65歳定年制義務化を控えた日本企業の現状と定年制の今後を考えます。
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- 【この記事を読んでわかること】
- 日本の定年制度は明治時代に始まり、定年年齢の延長をしながら現代まで続く
- 日本だけではなく世界各国で定年の引き上げや廃止の方向への動きがみられる
- 定年延長の背景には労働人口不足や財源確保などがある
- 65歳定年制の義務化以降もさらなる定年年齢の延長が予想される
日本の定年年齢の推移
定年制度は、労働者がある一定の年齢に達した際、その年齢に達したことを理由として就業規則や労働協約により雇用契約を終了させることをいいます。日本ではあたり前のように存在する定年制度ですが、世界では定年制度がない国も少なくなく、定年制度廃止や延長の動きは各国でみられます。 日本の定年制度は今後どのような動きをみせるのでしょうか。ここではまず、日本における定年制度の歴史と定年年齢の推移について解説します。
定年制度の始まりは明治時代
日本の定年制度の始まりは、今から130年以上前、明治時代までさかのぼります。日本最古の定年制度の記録は、1887年の東京砲兵工廠(しょう)の職工規定です。この規定には55歳を定年とする旨が記されています。また、民間企業では日本郵船が1902年の社員休職規則において定年を55歳としたという記録もあります。 当時の日本人の平均寿命は男性が43歳前後、女性が44歳前後といわれているので、当時の定年年齢は平均寿命よりも長く、まさに「終身雇用」という名にふさわしい制度であったと言えるでしょう。 ただ、今でこそ強制退職的な側面ももつ定年制度ですが、当時は労働者が頻繁に転職していたため、企業があえて雇用期間を定めることで優秀な労働者を一定期間確保するという足止め策的な側面が強いものだったとも言われています。
定年制度の拡大・導入【55歳定年】
しかし、第一次大戦後に労働市場は変化し、今度は雇用主側が過剰雇用を整理解雇(企業が人員削減のために一方的に解雇すること)以外の方法で解消することを目的として定年制度が拡大します。 また、労働者側も「定年までは解雇させない」という雇用の保障という観点から定年制を求めるようになり、多くの企業で1940年代後半に定年制度が導入されることとなりました。例として日清紡績美合工場では1946年に労働者が定年制度の確立を要求し、男子は55歳、女子は50歳を定年として定年制度が導入されたという記録があります。 1950年代前半には解雇を制約する判例法理も展開され、その後、高度成長期まで55歳を定年とする定年制度が続きました。 ここまでの流れからもわかるように、定年制度は雇用者にとっては人員整理的、労働者にとっては雇用保障的な意味合いをもつものとして存在するようになったのです。
年金支給開始年齢と定年の関係
55歳を定年とする定年制度が広がりをみせる一方、1954年の厚生年金保険法改正によって男子の年金支給開始年齢は3年ごとに1歳ずつ引き上げられるようになり、1974年には支給開始年齢が60歳になりました。 年金支給開始年齢が延長されると、55歳の定年後から年金支給開始の60歳までの5年間、受給(予定)者の収入が断たれることになります。当然、この動きに合わせるように労働組合も定年延長を要求し始めるのでした。
政府による定年延長促進【55歳から60歳】
1970年代に入り、政府は本格的に60歳に定年延長をするよう企業に働きかけを始めます。そして、1973年の改正雇用対策法では国が定年延長を促進する旨の規定が設けられ、定年を引き上げた中小企業には「定年延長奨励金」が支給されることとなりました。 こうして定年年齢は1970年代から少しずつ55歳から60歳へと移行しはじめ、1986年には高年齢者雇用安定法の改正により60歳定年の努力義務化がはかられます。 さらに、1994年の改正高年齢者雇用安定法では60歳未満の定年が原則として禁止され、1998年の施行によって60歳定年の時代が訪れたのでした。
さらなる定年延長へ【60歳から65歳】
その後、再び年金支給開始年齢は60歳から65歳へ引き上げられ、定年年齢もさらに引き上げられることとなります。2000年には65歳までの雇用確保措置が努力義務化、2004年には65歳までの雇用確保措置が義務付けられました(施行は2006年)。 そして、2006年以降、企業には「継続雇用制度の導入」「定年年齢の65歳引き上げ」「定年制の廃止」のうち1つを選択することが求められることとなります。この際、多くの企業では独自の基準を設けることで、継続雇用をしたい労働者のみを雇用するという動きがみられましたが、2012年には希望者全員を65歳まで継続雇用することが義務付けられたため、2013年の施行からすべての希望者が65歳まで働くという時代になったのです。なお、2025年3月までは経過措置期間と位置づけられています。
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世界の定年制度の状況
アメリカでは1986年に連邦雇用差別法の改正により、従業員20人未満の企業と警察官や消防士など特定の職業を除き、雇用者が40歳以上の労働者の年齢を理由に雇用の差別をすることを禁止しました。これは実質的な定年制度の廃止といえます。 なお、アメリカの年金支給開始年齢はこれまで原則65歳でしたが、現在は2003年から2027年までのあいだに67歳まで段階的に引き上げを行うこととされています。 以下のように、このような動きは世界各国でみられます。
国 | 定年制度 | 年金受給開始年齢 |
---|---|---|
アメリカ | なし | 67歳まで引き上げ予定 |
イギリス | なし | 68歳まで引き上げ予定 |
フランス | 70歳 | 67歳 |
スイス | なし | 65歳 |
ドイツ | なし | 67歳まで引き上げ予定 |
オーストラリア | なし | 65歳 |
シンガポール | 63歳(再雇用68歳) | 60際~70歳 |
韓国 | 60歳 | 65歳まで引き上げ予定 |
2022年9月時点定年制度の廃止や定年年齢の引き上げと連動して年金受給開始年齢の引き上げが行われるというのが現在の世界的な動きといえるでしょう。
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定年延長の背景
世界的な流れとなっている定年延長や廃止の動きですが、その背景にはどのようなことが考えられるのでしょうか。ここからは日本の定年延長の背景を考えます。
労働力の減少
定年延長の背景のひとつが、少子高齢化による労働人口の不足です。日本の人口は2008年をピークに減少の一途をたどっており、2017年には7,596万人だった生産年齢人口(15歳~64歳)は2040年には5,978万人まで減少するとの試算もあります。 労働人口の減少は日本経済の長期低迷を加速させるだけではなく、税収の確保や年金の財源確保にも影響を与えます。定年延長には労働力の減少に歯止めをかける狙いがあるのです。
社会保障制度の持続
医療や年金、社会福祉などの各種社会保障に対して支出される社会保障給付費は2019年度に過去最高の123兆9,241億円を更新。2040年のピーク時には約190兆円になると推測されています。社会保障制度の支えとなる労働人口が減少しているにも関わらず、給付対象となる高齢者が増加すると、社会保障制度の維持が困難になることは言うまでもありません。このように社会保障制度を持続させる目的でも定年延長が推進されています。
年金支給開始年齢との兼ね合い
厚生年金の支給開始年齢は2013年度より3年ごとに引き上げられており、男性は2025年に、女性は2030年に年金支給年齢が65歳となります。定年が60歳の場合、60歳で定年を迎えた人は定年後から年金受給開始までには5年もの空白期間が生じることとなり、その間を無収入で過ごすことにもなりかねません。この空白期間をなくすためにも、政府は2025年4月から希望者に対する65歳定年制を義務づけたと考えられます。
高齢者の労働意欲の高まり
定年延長の背景には労働者不足の解消や財源確保といった側面がある一方、労働者側からの「働きたい」というニーズに応えるという側面も持ち合わせているといえます。 これは内閣府の「第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」でも明らかで、日本では望ましい退職年齢を65歳ぐらいと考える人が38.3%、70歳ぐらいと考える人の割合が26.2%にのぼります。70歳ぐらいと考える人の割合はアメリカが13.2%、ドイツが2.3%、スウェーデンは1.9%であるため、欧米諸国と比較するときわめて高い割合です。
参考:「第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査|厚生労働省」
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定年年齢の現状
2013年からすべての希望者は65歳まで働くことが可能になりましたが、2025年3月までは経過措置期間の状態です。また、2021年には「70歳までの定年引上げ」や「70歳までの継続雇用制度」などの措置の努力義務が新設されました。 厚生労働省が2022年6月に公表した「高年齢者雇用状況等報告」では、従業員21人以上の企業232,059社のうち、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.7%にのぼり、着実に65歳定年制に向けた動きが高まっていることがわかります。 一方、70歳までの高年齢者終業確保措置を実施済みの企業は25.6%とまだまだ低い状態です。定年年齢を引き上げることで、数字上は労働人口の確保が可能になりますが、視力や聴力の衰えなど、身体的な理由から高年齢者の雇用が難しいケースがあることも事実です。そのため、「努力義務」という状態においては今後もそれほど大きな動きはみられないことが予想されます。
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定年延長とともに求められる環境改革
定年制度は時代とともにその目的も変化を遂げてきました。現状日本では定年年齢の引き上げという策がとられ続けてはいるものの、将来的には世界の多くの国々のように定年自体が廃止される可能性も十分に考えられます。 定年の延長は、労働人口の確保や財源確保、社会保障制度の維持などのメリットがある一方、組織の高齢化や健康管理の問題など企業にとってはデメリットがあることも事実です。また、労働者においても、いつまでも現役として働ける環境があることを歓迎する人がいる一方、老後は余暇を楽しみたいと考えている人がいることもまた事実です。 単純に定年年齢を引き上げることを目的とするのではなく、年を重ねても働きたいと思える環境づくりこそが現在の定年制度に必要なのではないでしょうか。
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定年70歳時代の心構え
定年年齢は継続的に引き上げられて、2020年時点では65歳となっていますが、定年年齢の引き上げは今後70歳になることが予想されています
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