結果的にダイバーシティが生まれた。外国籍や60代が活躍するWeb3企業「KYUZAN」とは。
今回はCTOである小宮山氏に「なぜダイバーシティのあるエンジニア組織が機能しているのか」その秘訣とKYUZANで働く魅力について話を聞いた。
小宮山 凌平 氏
東京大学大学院卒。学生時代はコンピュータビジョンとARを用いたテレプレゼンスを研究。卒業後はRhizomatiksにて、深層学習を用いたスポーツ映像のリアルタイムビジュアライゼーションシステムの開発に従事。現在はKYUZANの取締役CTOとして、会社のエンジニア組織のマネジメント及び、各プロダクトのフルスタックエンジニアを務める。
お金ではなく「実用的なユースケース」にこだわるWeb3企業。
ーまずはKYUZANさんが何をやっている会社なのか教えてください!
小宮山:株式会社キューザンは2018年に創業したWeb3スタートアップで、『自らブロックチェーンのユースケースを創造し、世の中に革新的な体験を生み出す』ということをミッションに掲げています。
自分たちで作って満足するよりも「ちゃんとユーザーに使ってもらえるプロダクトを作る」ことを意識しています。ユーザーがto Bかto Cかは意識していません。 結果として①to Cのブロックチェーンゲームと、②to BのNFT開発プラットフォームといった事業ポートフォリオになっています。
ブロックチェーン業界はこれまで3回冬の時代を迎えています。ビットコイン、イーサリアム(とスマートコントラクト)、ICO。それぞれバブルが発生し弾けるといったことを繰り返しています。 共通するのは、お金は集めたが価値を創出できなかったプロダクトは終わっていった点。逆に言うと、コツコツと価値に向き合いプロダクトを作ってきたプレイヤーはバブルが弾けても生き残っています。そういう意味でユースケースに拘って、長い間きちんと使われるプロダクトを作りたいと思っています。
「気づいたらブロックチェーンを使っていた」というプロダクト
ー具体的にどんなプロダクトを開発していますか?
小宮山:2018年の当時はNFTもイーサリアムもまだ誰も知らないような状況でした。 その時に作るべきものは何か考えたときに「気づいたらブロックチェーンを使っていた」というプロダクトが良いんじゃないかと。そのコンセプトで、GameWithと共同開発で作り始めたのが「EGGRYPTO」というゲームです。
「ゲーム」だったりの、いわゆるプロダクトのジャンルにこだわりがある訳ではなく、ブロックチェーンの利点を活かしつつ、とにかくみんなが使ってくれる実用的なプロダクトを作りたいという想いが当時は強かったですね。
2021年になるとNFTを知っている人が増えてきました。そうするとNFTを使ってプロダクトを作りたいという企業さんも出てきます。 そういった中で僕らはブロックチェーンプロダクトを開発するノウハウを培ってきたので、彼らをサポートするツールやサービスをやろうということで「Mint」というプロダクトをリリースしました。
『Mint』はWeb3プロダクトの基盤となるサービス
ー「Mint」とはどういったプロダクトなんですか?
小宮山:わかりやすく言うと、NFT版のFirebase*1です。 但し、初期のMintはNFT版のShopify*2と名乗っていました。
*1 Firebase…Google Cloud によって提供されている、アプリケーションを簡単かつ高速に構築するためのプラットフォーム。開発に役立つ数多くの機能が用意されている。
*2 Shopify…カナダで創業されたECサイト作成プラットフォーム。低コストで、だれでもネットショップを開設・運用できる。
小宮山:経緯をお話します。Mintの一番最初のクライアントは、自分の前職の会社で「ライゾマティクス」という、オリンピックの閉会式のクリエイティブ等を担当しているアート集団の企業でした。KyuzanにはMintの構想があり、ライゾマティクスさんにはNFTを使ったプロジェクトの構想がある中でお話をさせていただき、NFTショップを共同で開発したのがMintの始まりです。 ライゾマティクスは最先端のアート集団ということもあり、テクノロジーに強く、やりたいことも明確。そのため、我々としては「NFTを販売できる場」を提供するといった価値提供のみでビジネスが成立しました。
一方、NFTブームに乗り、NFTのビジネスを検討しはじめたような会社さんの大半は、そもそもNFTで何をしたらいいか分からないような状態でした。 「NFTを販売できる場」があっても残念ながら、それだけではビジネスが進まない。もっと深くサポートできるプラットフォームにしなければいけない、と認識を改めました。
その結果として、現在のMintはNFTをはじめたい事業者さんをトータルサポートできる基盤となるようなサービスをイメージしています。企画から設計、開発まで。NFTプロダクトを作る時に常にMintが基盤となっている状態を目指しています。
多様性ファーストではなく、結果的にダイバーシティが組織に生まれた。
ー続いて、KYUZANさんのエンジニア組織について外国籍やシニアの方などダイバーシティにあふれていると伺っているのですが、そのような組織になった背景を教えてください。
小宮山:実は多様性ファーストでチームを組成した訳ではないんです。単純にビジョンに共感して、かつ優秀なメンバーで組織を組成しようとなったとき、結果的に多様性が生まれたんですよね。 日本の若手で優秀なエンジニア、例えばメルカリ出身のエンジニアを採用するのは需給の問題から純粋にハードルが高い。となったときに「日本」や「若手」にこだわらず視野を広げ、優秀なメンバーを集めようという発想になりました。
初期の頃は、パートタイムのメンバーでフルリモートでスクラム開発をやったりしていて、中々うまくいかず、何か構造的に問題があるんじゃないかと思い苦悩していました。 そこで、あまり時間が取れない人ではなく、週2日以上、週16時間以上稼働の一定以上のコミットがある人しか採用しないという縛りをかけました。そしたら、自然と海外メンバーの採用がうまく進んでしまったんですよね。海外のユニコーン企業だったりGAFAクラスの人材が入ってきたんですよ。
ーすごいですね。海外メンバーの方は一人目から組織に馴染めたんですか?
小宮山:そうですね、まず一人目の方の採用が決まったときに英語のエンジニアリングのハンドブックをガーっと書いたんですよ。GitLabの働き方を参考にしたりして。
いわゆる誰でも参加できるようなオープンソースのプロダクトは、ドキュメントを基にして多種多様な人が開発に参加できるような形になっています。僕らの会社でも同じような形でドキュメントさえ整えれば、海外の人でもワークしてもらえるんじゃないかとは思ってました。
その方がめちゃくちゃ優秀だったっていうのはもちろんあるんですけど、狙いはあたって、一人目の海外メンバーから、早速ドキュメントだけでワークし始めました。
どのタスクにどのくらい時間をかけているかすべて可視化
ードキュメント以外でも「働き方」という点で工夫していることはありますか?
小宮山:もちろんドキュメントだけでなく、様々に開発組織の環境改善をしていて、1on1はオンラインで固定の時間で毎週15分行うというのは決めています。 ただ、1on1をやることを前提にしてはいけないとも思っています。
当社ではClickUpというタスク管理ツールを使っていて、どのタスクにどのくらい時間をかけているのか、いちいち聞くのも大変なので基本的には全てツールで管理するようにしています。
Slackも活用していて、毎週メンバーにフォームで入力してもらった内容がSlackでレポートされるようにしているんですが、僕やプロダクトのテックリードが返信すれば1on1に近いコミュニケーションを取れる形にしています。
ーコロナ前からフルリモートでずっとやってきたからこそ、どんどん洗練されて今もアップデートし続けてる訳ですね。
小宮山:エンジニアでフルリモートだと、どうしても「タスク」を渡してしまいがちだと思うんですよね。でもやはり、どういう意図でそのタスクをやっているのか背景がわからないと機転が利かないし、そもそも開発していて面白くない。
今だと開発プロセス自体を改善しています。 ざっくりしたストーリーレベルの要件をエンジニアに渡して、それに対して仕様を自分で決めて、タスクを自分で作ってリリースする。その一連をやってもらうようにしました。全体が見えて、自分で決めれた方がやる気もモチベーションも上がりますよね。
60代エンジニアも活躍
ーKYUZANさんでは60代のエンジニアの方も働いていると伺っていますが、どんな方なんですか?
小宮山:とにかく新しい技術が好きな人で、それだけでなくWeb1以前から前線でやってらしたので経験がすごいです。
誤認されることも多いのですが、当社のプロダクトも大部分はWeb2なんですよね。スマートコントラクトというブロックチェーン上で動いているコードがあるのでWeb3プロダクトなのですが、それ以外は例えばフロントはReact.js、バックエンドはNode.js。 セキュアでスケーラブルな実装とかを考えるとシンプルにWeb2で強いエンジニアが活躍できます。
60代のエンジニアの方にも、バックエンドの堅牢性であったり、スケーラビリティの部分をどんどんやってもらっていて助かってます。
ー60代の方が組織に入るということで、苦労した部分は何かあったんですか?
小宮山:特になくて、すんなり組織に入り込んでましたね笑。
日頃からキャッチアップされている方だからこそ、Slackも普通に使えて、英語のドキュメントも読めて、っていう前提はありましたけど、オンボーディングの時にオンラインで軽く話して「後はドキュメント見といてください」でだいたい完結しちゃいました。
むしろ、海外の人たちが英語で働く環境を整える方が大変でした。海外の方が働けている時点で、シニアの方にわざわざ何か用意しなくても問題ない土壌ができていました。
本気で世界と戦っていくプロダクトを作りたい方、一緒に働きましょう!
ーKYUZANのようなエンジニア組織にはどういう人が向いていると思いますか?
小宮山:年齢とか国籍とか性別とか関係なく、新しい技術をどんどんキャッチアップしていけるセルフスターターな人、仕事で英語を使ってみたいという人にとっては楽しい環境だと思います。
例に出した60代の方のようにWeb3の業界経験がなくても、Web2の知見が高い方は活躍できます。Web3経験はないが、Web3周りの開発をしてみたいという人も大歓迎です。
ー最後にKYUZANのCTOとして、小宮山さんはどういう人と一緒に働きたいですか?
小宮山:本当に世界で勝てるプロダクトを作っていきたいと思っているので、「自分の力でそういうプロダクトをリードしてやる」という気概がある人、まだ若いこのチームに経験と技術力を提供してくれるような人、一緒に働きましょう!
ー本日はインタビューありがとうございました!
「Web3」と「ダイバーシティ」。最先端的な印象のあるこの領域と、60代以上のエンジニアは一般にはイメージが遠いだろう。それもあり、このインタビューではなぜ多様性を受け入れる組織をKYUZANが作ったのかに個人的興味を強く持っていた。
そして今回小宮山氏と話し、逆説的ではあるが、小宮山氏が「ダイバーシティ」を意識していないからこそ、逆に「ダイバーシティ」の高い組織を作れているのではないかという感想を抱いた。KYUZANのミッションにある、実用性・ユースケースにこだわった「価値のあるプロダクト」を作るためには当然優秀なメンバーが必要だ。
その優秀なメンバーを集めるに際し、「国籍」「年齢」「性別」等でフィルターを掛ける事は貴重な母集団を減らす結果にしかならない。
どんな属性の人でも活躍できる環境を作り、母集団を最大限に広げる。そうした結果で自然に産まれた、ある意味合理的な「ダイバーシティ」を今回のインタビューでは強く感じた。
無理に多様性を推進するのでなく、誰でも活躍できる環境を作り、結果的にダイバーシティが産まれる。このダイバーシティへの姿勢は、様々な企業が参考にする部分が大いにあるだろう。
取材・執筆:網頭 翔真
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