年齢なんて関係なく、学びたいと思った時がそのとき。40代の今、大学院進学を決めたわけ

社会人として働きながら大学に行くこと。何歳になっても新しいことを学ぶこと。そんなエイジレスな概念を体現されている人のひとりが、株式会社キャスターでCRO(Chief Remotework Officer)として活躍されている石倉秀明さんです。4月より慶應義塾大学院政策・メディア研究科修士課程に通われ、リモートワークの研究に取り組まれています。今回はそんな石倉さんに、今回の大学院進学にまつわるお話をお聞きしました。

プロフィール

石倉秀明さん
株式会社キャスター CRO(Chief Remotework Officer)
株式会社リクルートHRマーケティングの契約社員としてキャリアをスタートさせる。MVP受賞を機に正社員となり計4年勤めたのちに、株式会社リブセンスへ転職。入社当時は5名だった組織が上場するまでの過程を経験する。その後、DeNAにて営業責任者や人事責任者を務め、2016年より現職である株式会社キャスター取締役に就任。Live News αやABEMAヒルズのコメンテーターとしても活躍中。

社会人をやりながら大学院進学を決めた理由

えなり
早速ですが、今回大学院進学を決められた理由を教えていただけますか?
石倉
リモートワークの研究がしたかったからです。キャスターの役員になってから7年が過ぎ、その間ずっとリモートワークをしてきました。その間「リモートワークで活躍するのはどんな人ですか」「リモートワークをうまくやっていくためのポイントはなんですか」と何度となく聞かれてきました。僕も7年間以上リモートワークの組織に所属しているので、自分自身で見つけ出したポイントやコツはもちろんあるんですが、なんだかしっくりこないことも多かったんです。
えなり
ご自身で見つけたものだけでは不十分だと感じられたわけですね。
石倉
僕が見つけたものはあくまでひとつの事例でしかないんですよね。“株式会社キャスター”でリモートワークをうまくやるためのポイントにすぎない可能性もあるわけです。どんな会社でも通用する普遍的なリモートワークのコツなのかは今のところ証明できていません。僕は以前からどうすればリモートワークがうまくいくのか証明されていないのが気持ち悪いなと思っていたんです。僕の疑問を解消してくれるものはないかと論文も調べました。でもリモートワーク自体が新しい働き方なので、先行研究はほとんどありませんでした。だったらいっそ自分でやろうと思ったんです。ちょうど娘が小学校受験をするタイミングだったこともあって、娘と一緒に勉強して受験してみようと受験に踏み切りました。

えなり
親子で受験、なんだかうらやましいです。もともとの興味が強くて、かつタイミングもよかったので今進学されたんですね。
石倉
そうですね。あとはアウェイの環境がほしいというのもありました。自分が所属している会社ってホームじゃないですか。そうではなくて、手探りで物事を進めないといけないような勝手がわからない場所で、かつ自分が主体的に動かないといけなくて、そしてできれば自分が一番下っ端である環境がほしかった。そういう環境がひとつはないと、人としてバランスが取れない感覚が昔からずっとあるんです。
えなり
キャスターに参画されてから7年以上が経過していますが、今まではなにがアウェイの役割を担っていたんでしょうか。
石倉
コメンテーターの仕事です。テレビの世界は今までのキャリアで経験したことはなかったし、もちろんコメンテーターとしての経験もありませんでした。でも出演する以上は、毎回聞く意味がある価値があることを話さないといけない。すごくシビアで、それがかえって面白いなと思っていました。今もその面白さは変わっていないんですが、やはり長くやっていると始めたばかりの頃のような右も左も分からない、すべてがはじめてという感覚はなくなっていくんですよね。ホームとアウェイの天秤が徐々にホーム側に傾いてきているのを感じていました。

一度目とはまったく違う二度目のキャンパスライフ

えなり
いろいろな要素が重なっての意思決定だったんですね。ところで石倉さんは高校卒業後に大学に入られて、その時は中退されていますよね。一度目の大学進学を決めたのはどうしてだったんですか?

石倉
当時の生活環境がいやで、それを抜け出したいと思ったのが大きいです。僕は群馬県の村で育ちました。市町村合併で最近やっと市になったような片田舎なんです。そんな田舎だったので、3軒隣に住んでいる人がなぜか僕の進路を知っているようなコミュニティの狭さでした。かつ価値観も保守的で、僕にはあまり合わなかったんですよね。家庭も金銭的に恵まれておらず苦しかったのもあって「この生活はいやだな」といつしか思うようになっていました。
えなり
そこを抜け出す手段として大学受験を選んだ、と。
石倉
そうです。この嫌な環境を抜け出すためには、大学受験が一番手っ取り早いしこの上ない好機だと考えました。そこからどうせなら一気に自分のステータスを変えられる、世間的に高学歴とされるところに行こうと思い、早慶に絞って受験勉強をはじめました。3年の9月からという遅すぎるくらいのスタートだったので、戦略的な対策を練って猛勉強しましたね。
その結果無事に入学できたものの、学費と生活費を自分で賄っていたなかで体調を崩してしまったんです。そして学費を払えずにいるうちに、気づいたら退学になっていました。

えなり
ハードな受験勉強の末に入学されたのに、その時は悔しかったのではないでしょうか。
石倉
中退するつもりだったわけではないですし、卒業できるまであと8単位だったこともあって残念な気持ちはありました。でも大学にすごく思い入れがあったかというと実は違っていて。先ほどもお話ししたように環境を変えたくて入ったんですが、正直に言うと思ったよりは変わらなかったんですよね。
えなり
想像していたものとのギャップを感じられたんですね。
石倉
「とんでもなくすごい人間ばかりなんじゃないか」とか「人としてのエネルギー量が段違いなんじゃないか」とか僕が壮大な妄想を抱いていたのもあると思いますが、意外と普通だなと感じていました。今思うとすごく失礼ですよね。でも当時の僕はそう感じて、もう1年生の前期の途中で早くも幻滅していたんです。自分の世界を変えることが進学の目的だったのと、それ以前に時間の余裕もほとんどなかったので勉強や友達と遊ぶことを楽しむということもない大学生活でしたね。ただ必死にバイトしてお金を稼いで、授業に出ての繰り返しでした。
えなり
現在の二度目の大学での生活はどうですか?
石倉
まず第一に楽しいです。受験してよかった。最近はよく「学び直し」や「リスキリング」と言われますよね。これらは1回ちゃんと学んだことを前提とした言葉です。でも僕の場合は大学時代はあまり勉強していませんでした。単位が取りやすい授業ばかり取っていましたし、なにかを知りたくて主体的に学ぶことはありませんでした。大学生ってわりとそういうものなのかもしれませんが。だから「学び直し」というより、「はじめて学んでいる」の方が近い気がします。そして今人生ではじめて、学ぶことが楽しいと感じています。
えなり
お話しぶりからも充実されているのがすごく伝わってきます。一方で取締役としての業務やコメンテーターのお仕事もあるなかで両立は大変かと思います。どのようにされているのでしょうか。

石倉
いくら楽しくとも、やっぱりそこは大変ですね。僕が通っているのは全日制なので授業はすべて昼間にあります。でも必ず大学に行かないといけないわけではなくて、オンラインの授業も多いので助かっています。たとえば90分授業を受けて、そのあと1時間ミーティングをしてというような形で両立させています。なんだかミーティングが続いているような感覚ですね。
えなり
仕事でも学校でもオンラインを駆使して両立されているんですね。
石倉
そうですね。Zoomが入れ替わったら頭も学校用と仕事用で切り替わりますし、オンライン上でオフィスと学校を行き来できるので、負担がものすごく大きいわけではありません。。ただ大学院となると授業で出る課題が多いのと、それとは別に自分の研究を進める必要があるのでそこが大変ですね。授業よりも自分自身の勉強をするための時間確保が難しいです。GWも多い日だと1日に10時間ほど勉強していました。

進学に最適なタイミングはない、学びたいと思った時がそのとき

えなり
10時間!すごいですね。石倉さんのように社会人が大学で学ぶにあたって、障壁になっていると感じるものはなにかありますか?

石倉
石倉:僕が納得いかないなと思っているのは、時短勤務に理由が必要な空気感ですね。時短勤務をするのに本来理由は要らないですよね。「時短勤務をしたいから」それだけでいいんです。その人がそうしたいのであれば、なんの事情もなかったとしても4時間勤務をしたっていいはずじゃないですか。ただ現実はそうなっていなくて、子育てなのか健康的な事情なのかそれ以外なのかは人によりさまざまですが、とにかく特別な理由があるのが当然のような空気になっている。それが腑に落ちないなと感じています。

えなり
たしかに時短勤務は特別な人がするものという空気感はありますよね。
石倉
あれよくないですよね。例えば大学院への進学を考えたとして、週3勤務であれば行ける人もいるかもしれないし、1日6時間勤務なら行ける人もいるかもしれないですよね。時短勤務に対する違和感の例に代表されるような働き方の面は、社会人が働きながら学ぶためにまだまだ改善していける部分だと思います。逆にそうしていかないと、大人が学ぶって難しいんじゃないでしょうか。

えなり
収入を得ながら働ける環境を作るということですね。
石倉
仕事をやめてしまえるだけの貯蓄があったり会社のお金で進学できたりする場合はいいと思いますが、そんな人はほんの一握りですよね。そうなると収入を得ながら進学するために、いかに時間をコントロールできるかにかかってくるんじゃないでしょうか。
基本的に進学に必要なのはお金と時間ですからね。お金と時間があればみんなやるかというとそうではない気もしますが。

えなり
えなり:そう思われるのはどうしてでしょうか。
石倉
たとえば、僕は今大学院と別に英語のコーチングサービスも受けているんです。その話や大学院の話をするとみんな「いいな」とか「自分も勉強しなきゃ」とは言うんですよ。でも「実際にはじめました」はほとんど聞いたことがなくて。もちろんできない理由がある人もいると思います。でもそれ以上に多いのは、タイミングを探っている人ではないでしょうか。

えなり
条件が整っていないというよりも行動に移せない人が多いんですね。
石倉
でもそうやって待っていても最適なタイミングなんてきっと訪れないんですよね。自分でここが最適だと決めるしかありません。たとえば社会人がよく使う言葉として「仕事が落ち着いたら」というのがありますが、人生で仕事が落ち着くタイミングなんておそらく来ないんですよ。僕は40歳まで仕事が落ち着いたことなんて一度もありません。だから多分ないんです。最適なタイミングは待っていても永遠にやってきません。仕事との両立は案外どうにかなるし、年齢も関係ありません。最適なタイミングがあるとすれば、やりたいと思ったその瞬間です。

えなり
やろうと思った時になにかはじめることが大事なんですね。
石倉
そうです。私は先ほどお話ししたように、40を過ぎてはじめて勉強が楽しいと感じています。この楽しさは、やろうかなと思ったタイミングで行動を起こしてみたから手に入ったものです。少しだけでも動いてみると、物事は自然と前に進んでいきます。
私自身もすごい決意があったわけではなくて、「やろうかな」と思って動き出すと勝手に動き出して、それに身を任せただけだったんですよね。だから小さくてもいいからまず行動することがなによりも大切だと思います。
もし進学を迷っている人がいたら「今すぐやれ」と伝えたいです。いつかは絶対にやってきませんから。

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執筆者
エイジレスメディア編集部
エイジレス社会の専門誌として、すべての人が何歳でも豊かな暮らしを紡げるよう有益な情報を発信していきます。主に、エイジレスなビジョンを体現している人物や組織へのインタビュー記事を執筆しています。