SAPの会計とは|財務会計(FI)と管理会計(CO)の役割や機能・学習方法を解説
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十河幸恵
しーそー
企業の業務プロセスを統合的に管理するERPソフトのSAPには、財務会計や管理会計などの会計機能も搭載されています。SAPを効果的に活用するには、会計機能の理解が重要です。
この記事では、SAPの会計機能の役割や機能概要、一般的な会計ソフトとの違い、知識・スキルを高める方法などを解説していきます。
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- 【この記事を読んでわかること】
- 世界シェアのNo.1のERPソフト「SAP」は、高度な財務会計・管理会計の機能を備えている
- SAPの会計機能は購買・生産・販売・人事などさまざまな機能と連携して、迅速かつ正確な処理を実現
- SAPの会計知識・スキルを高めるには、公式トレーニングの受講やSAP認定資格・会計関連資格の取得が有効
SAPとは|高度な会計機能を備えた世界シェアNo.1のERPソフト
しーそー
SAPとは、1972年に設立されたドイツに本社を置く世界的なソフトウェア企業、およびSAP社が提供するERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)ソフトウェア群の名称です。
ERPは、購買・生産・在庫・販売・会計・人事など企業の基幹業務を統合的に管理するシステムのことで、SAPはERP市場で世界No.1のシェアを誇っています。
SAPの強みの1つは、高度な会計機能です。国際会計基準(IFRS)や各国固有の会計基準に対応しており、複雑な会計処理を効率的に行えます。
ここからは、SAPの会計機能を中心に詳しく解説していきます。
▼SAP ERP全体の機能やメリットを詳しく知りたい人はこちら
SAP ERPとは|企業の成長を加速する機能やメリットを徹底解説
企業の業務効率化や経営の可視化のために、ERPソフトの導入を検討しているIT担当者の方は多いでしょう。ERPの導入を考えるうえで、多くの企業
SAPが備える2つの会計機能|財務会計(FI)と管理会計(CO)
しーそー
SAPの豊富な機能は、モジュールという業務ごとの機能群で構成されています。会計業務を担うモジュールは、大きく「財務会計(FI:Financial Accounting)」と「管理会計(CO:Controlling)」の2つです。
それぞれの概要を解説します。
- 財務会計(FI:Financial Accounting)モジュールとは
- 管理会計(CO:Controlling)モジュールとは
- SAPの財務会計(FI)と管理会計(CO)の違い
財務会計(FI:Financial Accounting)モジュールとは
財務会計は、おもに企業の外部のステークホルダーに向けた情報提供や報告を目的とした会計です。ステークホルダーには、投資家や債権者・取引先・規制当局などがあります。
財務会計では、企業の財務状態・業績・キャッシュフローの正確な把握と、それを反映した財務諸表の定期的な作成が必要です。SAPの財務会計(FI)モジュールでは、仕訳入力や帳簿作成、固定資産管理などの機能を備えて企業の財務会計業務をサポートします。
管理会計(CO:Controlling)モジュールとは
管理会計は、おもに企業内部の経営者や部門責任者に対して、意思決定をサポートするための情報提供を目的とした会計です。
管理会計では、原価計算・予算管理・収益性分析などに重点を置き、企業の効率性や収益性を高めるための具体的な分析や報告が行われます。管理会計は、外部のルールに縛られることなく、企業のニーズに合わせて柔軟に実施可能です。
SAPの管理会計(CO)モジュールでは、企業の経営状況を多角的に分析する機能を提供し、経営改善に役立てられます。
SAPの財務会計(FI)と管理会計(CO)の違い
以上のように、同じSAPの会計機能でも、財務会計(FI)と管理会計(CO)ではターゲットと目的が異なります。
企業の会計を学校の成績にたとえると、以下のようなイメージです。
- 財務会計(FI):企業の通知表を親に見せる
- 管理会計(CO):企業の通知表を分析して、成績アップの方法を考える
外部への情報公開や報告に焦点を当てた財務会計(FI)では、法規制に準拠した正確で確実な財務報告をサポートします。一方、管理会計(CO)では、企業特有のニーズに対応するための高いカスタマイズ性が特徴です。
以上、SAPが扱う財務会計(FI)と管理会計(CO)の概要でした。続いては、SAPと一般的な会計ソフトの違いを見てみましょう。
SAPと一般的な会計ソフトとの違い
しーそー
企業の会計といえば、いわゆる会計ソフトを思い浮かべる人も多いでしょう。SAPと一般的な会計ソフトは何が違うのでしょうか?
大きな違いは、会計ソフトが会計業務専用のソフトウェアであるのに対して、SAPは企業のさまざまな業務プロセスを統合的に管理している点です。
SAPは会計だけでなく、購買・生産・在庫・販売などのほかのシステムとも密接に連携できます。各企業活動のプロセスが自動的に会計処理に反映されるため、データ入力の手間や入力ミスなどのリスク削減が可能です。また、コストの発生源を追跡して、費用削減や効率化もしやすくなります。さらに、多くの業務データがリアルタイムで反映されるため、素早い財務状況の把握が可能です。これにより、経営者や部門責任者は、迅速かつ柔軟な意思決定ができます。
一方で、SAPは会計ソフトに比べて導入・運用の費用が高く、導入に長い期間が必要です。また、機能が多く複雑なため、利用者のトレーニングにも時間がかかります。
企業の業務プロセス全体の改善・変革を推し進めたいなら、SAPの導入が1つの選択肢です。一方、会計業務に焦点を当てて、業務効率や正確性を向上させたいなら会計ソフトの導入が適しています。
次に、SAPの財務会計(FI)と管理会計(CO)の役割や機能を詳しく見ていきましょう。
SAPの財務会計(FI)モジュールの機能概要
しーそー
まずは、財務会計(FI)の機能概要に関して、役割や具体的な機能、ほかのSAPモジュールとの連携などを解説します。
- 財務会計(FI)の役割
- 財務会計(FI)のおもな機能(サブモジュール)
- ほかのSAPモジュールとの連携
財務会計(FI)の役割
財務会計(FI)モジュールのおもな役割は、企業の財務状況を正確に把握し、外部のステークホルダーに報告することです。
具体的には、以下のような役割があります。
- 財務諸表の作成:貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などの財務諸表を作成
- 法令遵守:国際会計基準(IFRS)や各国の会計基準に準拠した会計処理を行う
- コンプライアンス強化:内部統制を強化し、不正会計などのリスクを防止
- グローバル展開の支援:多言語対応や連結会計機能により、グローバルな会計処理を支援
このように、FIモジュールは企業の正確で透明性の高い財務状況の把握・報告を実現します。
財務会計(FI)のおもな機能(サブモジュール)
財務会計(FI)モジュールには多くの機能がありますが、その中から代表的な4つの機能(サブモジュール)を紹介します。
- 総勘定元帳(FI-GL)
- 債権管理(FI-AR)
- 債務管理(FI-AP)
- 固定資産会計(FI-AA)
総勘定元帳(FI-GL)
総勘定元帳(FI-GL)は、企業のすべての会計取引を記録・管理し、財務諸表を作成する機能です。SAPシステム内のほかのモジュールからさまざまな業務データが集まってきます。
おもな機能は以下のとおりです。
- 企業のすべての会計取引の記録
- 勘定科目の管理と仕訳
- 財務諸表の作成
- 決算処理
FI-GLは、企業の財務データの正確性と完全性を保証するための中心的な役割を果たし、会計情報の信頼性を確保します。
債権管理(FI-AR)
債権管理(FI-AR)は、顧客や得意先への売掛金や未収金などの債権を管理する機能です。得意先ごとに売掛金の追跡や与信管理などをサポートします。
おもな機能は以下のとおりです。
- 売掛金の管理
- 入金処理
- 請求書の発行
- 与信管理
FI-ARは、企業の資金繰りを管理するための重要なサブモジュールです。
債務管理(FI-AP)
債務管理(FI-AP)は、仕入れ先やサービス提供者に対して支払うべき買掛金を管理する機能です。正確な買掛金管理により、企業の支払い能力と信頼性を保ちます。
おもな機能は以下のとおりです。
- 買掛金の管理
- 支払い処理
- 支払い条件設定
- 仕入先管理
FI-APは、企業の資金調達や支払管理を効率化するために重要なサブモジュールです。
固定資産会計(FI-AA)
固定資産会計(FI-AA)は、企業の固定資産(建物・機械設備など)の購入や価値の減少(減価償却)、売却などを管理する機能です。固定資産のライフサイクル全般にわたるコストと価値の追跡を可能にし、税務上の要件に対応した正確な資産報告を支援します。
おもな機能は以下のとおりです。
- 固定資産の取得と登録
- 減価償却計算
- 固定資産の売却や除却
- 固定資産台帳の作成
FI-AAは、企業の資産価値を正確に把握するために重要なサブモジュールです。
ほかのSAPモジュールとの連携
SAPの財務会計(FI)モジュールは、SAPのほかのモジュールと密接に連携して、企業の統合的な業務プロセスの効率化を支えます。連携の具体例をいくつか見ていきましょう。
たとえば、購買業務を管理する工場管理(MM)モジュールと連携して、仕入れ情報の自動計上や買掛金の管理などを行います。また、受注・出荷・請求などの販売業務を管理する販売管理(SD)モジュールからは、売上情報の自動計上や売上債権の連携が可能です。さらに、人事管理(HR)モジュールからの給与支払い情報は、FIでは経費として処理されます。
こうした連携により、企業は迅速な財務状況の把握や業務プロセスの効率化が実現可能です。
以上、財務会計(FI)の機能概要でした。ここからは、同じ会計業務でも目的の異なる管理会計(CO)の機能概要を解説していきます。
SAPの管理会計(CO)モジュールの機能概要
しーそー
続いては、管理会計(CO)の機能概要に関して、役割や具体的な機能、ほかのSAPモジュールとの連携などを見ていきましょう。
- 管理会計(CO)の役割
- 管理会計(CO)のおもな機能(サブモジュール)
- ほかのSAPモジュールとの連携
管理会計(CO)の役割
管理会計(CO)のおもな役割は、企業の経営者や部門管理者などが意思決定を行うための情報を提供することです。
具体的には、以下のような役割があります。
- 収益性分析:製品・顧客・チャネルなどの収益性を分析することで、収益向上のための施策を立案
- コスト管理:製品原価、販売費や一般管理費などのコストを分析し、コスト削減のための施策を立案
- 計画・予算管理:経営計画や予算に基づいて、企業活動を管理
- 意思決定支援:分析結果に基づいて、経営者や部門管理者などの意思決定に必要な情報を提供
このように、COモジュールは企業運営の効率化と戦略的意思決定をサポートします。
管理会計(CO)のおもな機能(サブモジュール)
管理会計(CO)モジュールには多くの機能がありますが、その中から代表的な4つの機能(サブモジュール)を紹介します。
- 間接費管理(CO-OM)
- 原価計算(CO-PC)
- コストセンター会計(CO-CCA)
- 収益性分析(CO-PA)
間接費管理(CO-OM)
間接費管理(CO-OM)は、企業の製造間接費や販売費、一般管理費などの間接費を管理する機能です。間接費は、製品原価や収益性の分析に影響を与えるため、正確な管理が求められます。
おもな機能は以下のとおりです。
- 間接費の計上
- 間接費の配賦
- 間接費の計画と分析
CO-OMは、企業のコスト管理を効率化するために重要なサブモジュールです。
原価計算(CO-PC)
原価計算(CO-PC)は、製品やサービスの実際の製造原価を計算し、管理する機能です。コストの正確な把握により、価格設定や利益分析を支援します。
おもな機能は以下のとおりです。
- 標準原価計算
- 実際原価計算
- 原価差異分析
CO-PCは、企業の収益性を向上させるために重要なサブモジュールです。
コストセンター会計(CO-CCA)
コストセンター会計(CO-CCA)は、企業の組織や部門ごとのコストを管理する機能です。責任範囲に基づいてコストを分配し、組織の適正なコスト管理を実現します。
おもな機能は以下のとおりです。
- コストセンターの設定
- コストの配賦と分析
- 部門別の業績評価
CO-CCAは、内部コントロールを強化し、経営資源の適切な配分のために重要なサブモジュールです。
収益性分析(CO-PA)
収益性分析(CO-PA)は、製品・顧客・市場などセグメントごとの収益性を分析する機能です。戦略的な意思決定をサポートし、企業の収益性を最大化します。
おもな機能は以下のとおりです。
- 売上高・利益・コストなどのデータ収集
- セグメント別の収益性分析
- 市場トレンドと顧客行動の分析に基づく収益予測
CO-PAは、企業の経営目標の達成を支援するために重要なサブモジュールです。
ほかのSAPモジュールとの連携
管理会計(CO)モジュールは、SAPのほかのモジュールと密接に連携し、企業の内部経営管理と業務プロセスの効率化を支援します。連携の具体例をいくつか見ていきましょう。
たとえば、原材料の購入や在庫管理を担当する資材管理(MM)モジュールとの連携を通じて、原価計算に必要な材料コストの情報を取得します。また、販売管理(SD)モジュールの製品やサービスの売上データを収益性分析(CO-PA)に連携することで、顧客や市場セグメントごとの利益分析が可能です。さらに、人事管理(HR)モジュールからの人件費や給与データは、コストセンター会計(CO-CCA)に反映され、人的資源のコスト管理に役立ちます。
こうした連携により、COモジュールは企業のコスト管理と収益性分析をより迅速かつ正確に行うことが可能です。
以上、SAPの主要な会計機能である財務会計(FI)と管理会計の機能概要を説明しました。最後に、会計機能の知識・スキルを身につける方法を紹介します。
SAPの会計機能の知識・スキルを高める3つの方法
しーそー
ここまで見てきたように、SAPはさまざまなモジュールと連携して豊富な会計機能を提供しています。こうした会計機能を使いこなすための知識やスキルを高める3つの方法を見ていきましょう。
- 公式トレーニングコースの受講
- SAPコンサルタント認定資格
公式トレーニングコースの受講
最初に紹介するスキルアップ方法は、SAPの公式トレーニングコースの受講です。
初級者から上級者まで、SAP製品の機能や操作方法を体系的に学習できる多彩なプログラムが用意されています。
トレーニングコースの受講は、経験豊富な講師の指導を受けられ、実際のSAP環境での演習があるため知識だけでなく実践力も養える点がメリットです。一方で、受験料が非常に高額なため、個人で受講するにはハードルが高い点には注意しましょう。
SAPの会計機能を体系的に学び、実践的なスキルを身につけたい人に向いているスキルアップ方法です。
▼SAP勉強時のおすすめ本や講座を詳しく知りたい人はこちら
SAP勉強時のおすすめ本・講座は?本で知識を得て実際に手を動かそう
SAPは、企業の様々な業務プロセスを統合し効率化するための包括的なERPソフトウェアです。この記事では、レベル・目的別にSAP学習における適
SAPコンサルタント認定資格の取得
SAPの知識・スキルを高めるには、SAP認定コンサルタント資格の取得も有効です。
SAP認定コンサルタント資格は、「アソシエイト」「スペシャリスト」「プロフェッショナル」の3つのレベルと、「アプリケーション」「デベロップメント」「テクノロジー」の3つの分野に分かれています。2024年2月現在で130種類以上の資格が用意されており、目的に合わせた資格を選択可能です。
会計に関連するSAP認定コンサルタント資格には、以下のようなものがあります。
- SAP Certified Associate – Implementation Consultant – SAP S/4HANA Cloud Public Edition – Financial Accounting
- SAP Certified Application Associate – SAP S/4HANA for Management Accounting Associates (SAP S/4HANA 2021)
SAP認定コンサルタント資格は高い専門性が求められるため、転職市場での評価も高く、キャリアアップにも役立ちます。
▼SAP認定コンサルタント資格の入門編であるアソシエイト認定資格のことを詳しく知りたい人はこちら
SAPアソシエイト認定資格とは?種類や難易度・メリット・勉強法を解説
「SAPのプロジェクトに参画するのでスキルを高めたい」「SAPのスキルをアピールできる武器が欲しい」そんな人には、SAP社が認定するSAPア
会計に関する資格の取得
SAPの会計機能の理解を深めるためには、会計知識を強化するアプローチもあります。会計知識を高めるためには、会計関連の資格取得が近道です。
会計関連の資格には以下のようなものがあります。
- 簿記
- FP(ファイナンシャルプランナー)
- 認定管理会計士
- 公認会計士
一般的な会計の知識を高めることで、SAPの会計機能が持つ業務的な背景を理解でき、スキルの向上につながるでしょう。
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特化型エージェント
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社内SEはホワイトな求人も多いためおすすめです。
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まとめ|SAPの会計機能で迅速かつ透明性の高い企業会計を実現
しーそー
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SAPの会計機能は、財務会計(FI)と管理会計(CO)の2つの主要モジュールから構成されており、企業の財務状況の把握・経営戦略の策定・業務効率の向上などさまざまな役割を担います。
会計業務は、企業の大小や業界・業種を問わず、どんな企業にも必要です。SAPを扱うエンジニアやコンサルタントにとっても、会計分野の専門的な知識・スキルはキャリアを発展させる大きな武器となるでしょう。
本記事で解説したSAP会計機能の基礎知識やスキルアップ方法を参考に、企業の成長への貢献や自身のキャリア実現の第一歩を踏み出しましょう。