死亡退職金が相続税の対象に?500万円の非課税枠を利用する時の注意点
経営者や会社員が亡くなった場合に会社から遺族に支払われる「死亡退職金」。通常の退職金は「所得税」の対象になる一方で死亡退職金は「相続税」の対象になります。さらに、死亡退職金には500万円の非課税枠が設けられています。本章では、死亡退職金が相続税になる理由と500万円の非課税枠についてわかりやすく解説します。
- 【この記事を読んでわかること】
- 死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の対象になっている
- 死亡退職金で相続税の課税対象となるものは、亡くなった人が死亡してから3年以内に支給が決まったもの
- 死亡退職金の非課税枠は財産を相続できる権利のある法定相続人一人に対して500万円を乗じた金額
死亡退職金とは
死亡退職金は亡くなった人が受け取るはずだった退職金を、亡くなった人の遺族に会社が支払う制度です。同制度はすべての企業で実施されているわけではなく、退職金制度を導入している企業では支払う事例が多いです。
また、同制度を導入していない企業でも、功労金という名称で亡くなった人への退職金が用意されているケースもあります。同制度は会社から遺族に直接現金が支給されることになりますが、法律上は相続税の対象になっています。
死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の対象
死亡退職金で、遺族が会社から退職金を受け取る際は相続税が課税されることを覚えておきましょう。相続税は亡くなった人が持っていた財産を表す「相続財産」と、亡くなった時点では持っていない財産を表す「みなし相続財産」の2種類です。
一般的な相続財産
相続の対象になる財産は相続財産と呼ばれ、亡くなった人が持っている財産の中で、金額に換算できる価値があるものを指します。例えば、現金や預貯金に加えて、株式や投資信託といった有価証券、土地や建物などの不動産、自家用車も含まれます。
これらの亡くなった人が持っていた財産を遺族などの相続人に相続される際に課税される税金が相続税です。相続人は亡くなった人が死亡した翌日から10ヶ月の間に所轄税務署に申告を行い、相続税を納めなければいけません。
みなし相続財産
みなし相続財産は、亡くなった時点でもっている財産ではないため相続財産とは異なります。しかし、民法上の扱いが相続財産と同じであるため、相続税の課税対象になってしまいます。みなし相続として扱われる財産には他にも以下のものが対象となります。
・生命保険金
・生命保形契約の権利
・定期金の権利
・特別寄与料
・低額譲受
・債務免除の利益
退職金は亡くなった人が所属する会社から、遺族に対して直接支払われるものであるため亡くなった人の財産ではなく、みなし相続財産として扱われます。生きている間に退職金が支払われた場合は、退職所得として課税対象になるため注意してください。
死亡してから3年以内の退職金が死亡退職金
死亡退職金で相続税の課税対象となるものは、亡くなった人が死亡してから3年以内に支給が決まったものです。仮に3年を超えてから支給されたものについては相続した遺族の一時所得として扱われるため、所得税の課税対象になります。
また、退職金という名称を使わない功労金・慰労金・弔慰金として現金が支給された場合でも、退職金と同じ性質を持つものに対してはみなし財産として相続税が課税されます。
死亡退職金の非課税枠500万円とは
死亡退職金には非課税枠と呼ばれる制度が用意されています。これは残された遺族の生活を保障するなどを目的とし、退職金に対して一定の金額まで相続税がかからないというものです。退職金を給付される遺族は、会社の給付額から非課税枠を差し引いて残った金額に対して相続税が課税されます。
死亡退職金の具体例
死亡退職金の非課税枠は財産を相続できる権利のある法定相続人一人に対して500万円を乗じた金額です。例えば、父親が不慮の事故により勤務中に死亡し、遺族(母親と子供)が退職金を受け取る場合は500万円×2=1,000万円が非課税枠です。この非課税枠の計算式で用いることになる法定相続人を数える際は、注意しなければいけない事項が2つあります。
また、本来の相続人が既に亡くなっているケースでは、相続人の子供や孫も実子と同じ扱いで計算します。退職金だけでなく、亡くなった人が保険料を負担していた生命保険から遺族に払われる保険金もみなし相続財産として同様に扱われるため、退職金と同じ非課税枠が利用でき、計算式も同じものが使われます。
退職金と保険金はそれぞれ別の非課税枠が設けられているため、条件に当てはまっていれば、どちらの非課税枠も使用できることも覚えておきましょう。
死亡退職金の非課税枠500万円を受ける時の注意点
退職金を受け取る際の非課税枠は全員が対象になるわけではありません。相続放棄や相続権を失った人は非課税枠の対象にならないため、給付されたすべての金額に対して相続税が課税されます。父親の退職金を受け取る具体例として、父親・母親・子供の3人で構成された家族のケースを紹介します。
ケース1:父親・母親・子供で構成された3人家族
母親と子供が1,000万円ずつ給付を受けることになったが、子供は相続を放棄した。
非課税枠算出人法は以下のとおりです。
500万円×法定相続人2人(母親1人・子供1人)=1,000万円
子供は相続放棄をおこなっていますが、法定相続人としては数えることになるため注意が必要です。
1,000万円の非課税枠をそれぞれの相続人に分配します。しかし、相続放棄を選択した場合や相続権を失った人は非課税枠を適用できなくなるため注意が必要です。また、相続人以外の人が死亡退職金を受け取る際も非課税枠が適用できません。
ケース1の事例では子供が相続放棄を選択しているため、子供には非課税枠を適用できません。そのため、母親が受け取ることになる退職金にだけ非課税枠が適用されます。母親が受け取ることになる退職金の金額は1,000万円であるため、非課税枠の1,000万円を差し引いて課税対象の相続税は0円です。
子供:退職金1,000万円-非課税枠なし(相続放棄)=課税対象の退職金1,000万円
死亡退職金を受け取る前に専門家に相談
亡くなった人の勤務先から遺族に対しては退職金以外にも弔慰金や葬祭料として現金が給付されることがあります。遺族に支払われる弔慰金は、退職金と同じ扱いをされるものを除く場合でも、一定の金額を超えたものは、相続税が課税されます。
一定の金額は亡くなった人が死亡した原因が業務に関係する場合は普通給与の3年分、死亡した原因が業務に関係しない場合で普通給与の半年分とされており、これらの金額を超えなければ課税対象にはなりません。退職金や弔慰金が課税対象になるかどうかは、退職金の金額や非課税枠によっても大きく変化します。
また、亡くなった人が会社役員などを勤めていたケースや、法定相続人が複数いるケースでは退職金や非課税枠の計算も膨大になるため、一般人で相続を取り扱うことが難しいです。
税理士は相続税に関する専門知識やノウハウを持っているだけでなく、相続後の確定申告を代行してもらうこともできます。複雑な相続や退職金に悩んでいる人は税理士などの専門家を積極的に活用してみましょう。
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