高年齢者雇用安定法違反で会社に罰則は?労働者は雇用を主張できる?

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高齢者の雇用を安定させるための高年齢者雇用安定法。2022年現在では、65歳までの雇用継続が義務化、70歳までが努力義務化されています。これを会社、事業主が違反した場合に何らかの罰則はあるのでしょうか。また、労働者は会社側に対して雇用継続を主張できるのでしょうか。本記事では、高年齢者雇用安定法の義務違反について解説します。

  • 【この記事を読んでわかること】
  • 高年齢者雇用安定法に違反して雇用を継続しなくても罰則はない
  • 違反すると行政指導を受け、最悪、企業名を公表される
  • 事業主が違反しても、労働者が直ちに雇用継続を主張できるわけではない
  • 雇用継続拒否が権利濫用となる場合は雇用継続が認められる

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高年齢者雇用安定法に違反しても罰則はない

高年齢者雇用安定法違反で会社に罰則は?労働者は雇用を主張できる?

いきなり結論になりますが、企業が高年齢者雇用安定法に違反しても罰則はありません。つまり、60歳や70歳といった高齢の労働者を雇用しなければいけない義務を怠っても、罰金や懲役などの制裁を受けることはない、ということになります。

ただし、行政指導を受けることはあります。
「高年齢者雇用確保措置」の違反と「高年齢者就労確保措置」の違反で行政指導の内容が異なるので、それぞれ解説します。

「高年齢者【雇用】確保措置」違反の行政指導

まず、「高年齢者雇用確保措置」と「高年齢者就労確保措置」の違いを簡潔に説明すると、

  • 高年齢者雇用確保措置:65歳までの雇用を確保する義務
  • 高年齢者就労確保措置:65歳から70歳までの就業機会を確保する努力義務

となります。65歳までか70歳までかという点と義務か努力義務かという点が大きな違いです。

では、高年齢者雇用確保措置の行政指導の内容から見ていきましょう。以下が概要になります。

①厚生労働省の公共職業安定所(通称ハローワーク)から指導・助言を受ける
②是正しないと措置を講ずるよう勧告される
③勧告にも従わない場合、企業名を公表される

このように、企業が65歳までの雇用を確保する義務を怠ると、まずは指導・助言され、次に勧告、最後に企業名公表という段階を踏みます。

行政機関の実施する「公表」は、マスコミ・国民への情報提供という場合だけでなく、義務の履行を促すための一種の「制裁」という場合もあります。高年齢者雇用安定法違反の場合は、明らかに後者です。公表により、企業名・代表者名・所在地などが特定され、現代ではネット上に永遠に違反の事実が残ってしまいます。いわゆるブラック企業と評価され、社会的信用を失い、今後の人材採用にも支障を来し、経営を危うくする可能性があります。

「高年齢者【就労】確保措置」違反の行政指導

次に、高年齢者就労確保措置(65歳から70歳までの就業機会を確保する努力義務)の行政指導の内容を見ていきましょう。以下が概要です。

  1. 厚生労働省の公共職業安定所(通称ハローワーク)から指導・助言を受ける
  2. 実施計画の作成・提出を勧告される
  3. 著しく不適当な計画には変更を勧告される

雇用確保措置と同様に、指導・助言から段階を踏み、勧告されることはありますが、企業名を公表されることはありません。あくまで努力義務であるため、公表の制裁まではしないという点が大きな違いとなります。

労働者は雇用継続を主張できる?

高年齢者雇用安定法違反で会社に罰則は?労働者は雇用を主張できる?

企業が高年齢者雇用安定法に違反すると罰則はないが行政指導を受けることがあることはわかりました。では、企業が高年齢者雇用安定法に違反した時、労働者は雇用継続を主張できるのでしょうか。

結論としては、必ずしも雇用継続が認められるわけではありません。理由を見ていきましょう。

雇用確保措置義務の解釈

65歳までの雇用を確保する雇用確保措置義務は、具体的な雇用契約の内容を明らかにしている定めがなく、あくまでも事業主に公法上の義務を課した行政取締法規に過ぎないという理解が裁判例の多数派です。要は、企業に対してただ抽象的に引き続き雇用する制度の導入を要求しているだけ、と解釈ができます。したがって、労働者が雇用継続を主張しても、必ずしも認められるわけではありません。

また、就労確保措置(65歳から70歳までの就業機会を確保する努力義務)は努力義務であるため、雇用契約を発生させるまでの効力がないことは明らかです。

雇用契約は原則「労使の合意」で決まる

賃金・期間・職務内容など、雇用契約の具体的な内容は原則として「労使の合意」、つまり労働者と使用者が条件に合意することによって決まります。仮に企業側が再雇用に応じなくても、それ自体は高年齢者雇用安定法の違反とはなりません。再雇用契約であっても、原則として企業と労働者双方の合意が前提となります。

実際に、労働者の訴えがあったにも関わらず、再雇用契約が成立しなかった判例を見てみましょう。

再雇用契約が成立しなかった判例

【裁判例】アルパイン事件(東京地裁令和元年5月21日判決・労働判例1235号88頁)

Y社(音響機械メーカー)で設計・開発業務に従事していたXさんは、定年退職にあたり、Y社から、その子会社の人事総務部における事務職として再雇用するとの提案を受けました。しかし、Xさんは、定年前と同じ業務と勤務場所での再雇用を希望してY社の提案を拒否し、再雇用されませんでした。Xさんは、定年前と同じ設計・開発業務を職務内容とする雇用契約がY社とのあいだで成立していると主張して、契約上の地位確認などを求めました。

裁判所は、再雇用契約の成立には労使の合意が必要であるところ、本件で契約が成立しなかったのはY社の再雇用提案をXが拒否したためで、高齢者雇用安定法は定年前と同一条件での再雇用を義務付けているわけではなく、雇用契約の成立を認める余地はないとしました。

この判例で裁判所は、企業側に定年前と同一条件で再雇用する義務はないと判断しているため、Xさんの主張は認められませんでした。雇用契約の成立にはやはり「労使の合意」が前提であることがわかります。高齢者雇用安定法があるからといって、必ずしも雇用継続が認められるわけではないのです。

企業が再雇用を拒否できないケース

高年齢者雇用安定法違反で会社に罰則は?労働者は雇用を主張できる?

雇用契約は労働者と使用者(会社や事業主)の合意が前提ですが、仮に企業側が自由に雇用契約を拒否できるなら労働者の保護は図れず、高年齢者の雇用安定を求める高年齢者雇用安定法の趣旨に反します。

そのため、企業側からの再雇用拒否には、不合理な解雇を禁止する「解雇権濫用法理」と同様の規制が及ぶと理解されています。

解雇権濫用法理(労働契約法16条)

解雇権濫用法理(労働契約法16条)では、労働者を解雇するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要で、これを欠く場合は権利の濫用として「解雇の意思表示」拒否は許されません。この法理を「再雇用拒否の意思表示」にも適用するのです。

たとえば就業規則などで再雇用を認める条件や、再雇用を認めない欠格事由が明確に定められている場合に、条件を満たす労働者や、欠格事由のない労働者から再雇用の希望があったにもかかわらず、事業主が拒否することは権利濫用として許されません。

厚労省の行政指針(※)でも、「継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する。」と明記されています。

高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(平成24年11月9日・厚生労働省告示第560号)「第2 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用 2、継続雇用制度」

再雇用契約が成立した判例

【裁判例】東京大学出版会事件(東京地裁平成22年8月26日・労働判例1013号15頁)

T被告会社は、定年退職者を契約社員として再雇用する条件として、良好な健康状態と通常勤務の意志と能力を就業規則に定めていました。原告Xが定年後の再雇用を求めたところ拒否されたので、裁判所に雇用契約上の地位確認を求めました。

裁判所は、就業規則の条件を満たしているにもかかわらず再雇用を拒否した権利濫用と評価し、雇用契約が成立していると判断しました。

このように、就業規則の条件を満たしている場合には企業は再雇用を拒否することはできません。拒否できない以上、労使の合意がなされたとみなされ、雇用契約の成立が認められます。

再雇用契約の更新が成立した判例

【最高裁判例】津田電気計器事件(最高裁平成24年11月29日判決)

Y会社の従業員Xは、定年後1年間の嘱託社員として再雇用されました。Xは1年経過後も引き続き雇用継続を希望したところ、Y会社が拒否したため、裁判所に地位確認と賃金相当額の支払を求めました。

Y社では「高齢者雇用継続規程」をもうけ、採用基準や賃金額も定めており、Xは採用基準を満たしていました。

最高裁は、採用基準を満たすXには雇用継続への合理的な期待があり、継続拒否は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないので、再雇用が継続していると認め、その契約内容はY社の「高齢者雇用継続規程」に従うとしました。

解雇権濫用法理は、定年後に最初に再雇用される際だけに止まりません。再雇用期間の終了後、さらに再雇用契約の更新がなされるか否かの局面でも同様に、権利の濫用でないことが要求されます。

古くから最高裁は、繰り返される短期間契約の更新拒否(いわゆる「雇い止め」)には、解雇に関する法理を適用して合理的な理由と社会相当性を欠く更新拒否は許されないと判断してきました(※1、※2)。上の判例は、その考え方を定年後の再雇用にも及ぼしたものです。

※1:最高裁昭和49年7月22日判決(東芝柳町工場事件)
※2:最高裁昭和61年12月4日判決(日立メディコ事件)

雇用契約は認められなかったが、慰謝料請求できた判例

【裁判例】日本ニューホランド事件(札幌地裁平成22年3月30日判決・労判1007号26頁)

労働者Xは、就業規則で定められた再雇用制度に基づき、Y会社に再雇用を申し出ました。しかし、Y会社は、Xが、会社と対立する少数組合に属していることから、再雇用を拒否しました。

裁判所は、Y会社が再雇用を拒否したことは権利の濫用であるとしながらも、賃金額について何らの合意もないことから雇用契約が成立したとするのは無理としました。

雇用契約は不成立としましたが、会社と対立する少数組合の労働者に不利益を与える目的での再雇用の拒否は不法行為であるとして慰謝料請求は認容しました。

雇用契約の成立を認めるには、その契約内容が明確に定まっている必要があります。いかに会社側の拒否が不当でも、賃金・労働時間・契約期間など労働条件が未定のままでは、どのような契約が成立するかわからないので、再雇用契約を認めることはできません。

しかし、労働条件が定まっていないために雇用契約を認めることができない場合でも、再雇用の拒否が権利の濫用ならば、それは民法上の不法行為(民法709条)であり、労働者からの慰謝料請求が認められます。

まとめ

定年後の再雇用が義務化されても、違反行為を放置すれば、高年齢者の生活安定は図れません。
会社が雇用継続の制度を設けてくれないときは、労基署やハローワークに行政指導を求めることができます。不当に再雇用を拒否されたときには、弁護士や裁判所を通じて再雇用契約成立の確認や慰謝料請求などが可能です。
泣き寝入りすることなく、相談することをおすすめします。

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執筆者
望月則央
著述業/法律解説・監修
弁護士として20年にわたり、労働事件、一般民事、交通事故、債務整理、相続問題など、様々な事件の弁護を担当。特に刑事事件の経験は豊富。現在は各種法律記事の執筆・監修を行う。早大法学部卒。