【改正高年齢者雇用安定法対応!】定年制度と就業規則の定め方

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昨今、高年齢者の就業機会確保のための法整備が着々と進み、これまで60歳を定年としていた企業は対応に追われています。
本記事では、改正高年齢者雇用安定法に基づく「65歳までの安定した雇用確保義務」と「70歳までの就業確保措置(努力義務)」に対応した定年制度と就業規則の改訂を解説します。

  • 【この記事を読んでわかること】
  • 高齢法対応定年制度「65歳までの雇用確保義務」への対応パターンは3つ
  • 高齢法対応定年制度「70歳までの就業確保措置」への対応パターンは5つ
  • 各措置について就業規則に反映する際の記載例がわかる
  • 就業規則に記載の定年制度を変更した際は労使合意と労基署への届出が必要

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定年制度と就業規則

定年制度とは、労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度をいいます。
10名以上の常時雇用者がいる企業には就業規則の作成・届出義務があり、退職については就業規則に必ず記載する項目(「絶対的必要記載事項」)となっています。

常用労働者が10名未満で就業規則の作成義務がない場合は、その運用において法律を下回らないことが求められています。

定年年齢は高年齢者雇用安定法(「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」第8条)」により60歳を下回ることができません。また、同法の近年の改正によって65歳までの雇用確保義務と70歳までの就業確保努力義務が企業に課せられることになりました。

まずは定年制度法改正の変遷と改正内容、企業が対応すべきことを具体的にみていきましょう。

高年齢者雇用安定法と定年制度

法改正の流れ

高年齢者雇用安定法は1986年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が改正されて誕生しました。

その後、定年制の直接規制と高年齢者雇用機会確保に関する施策は、下記経過をたどります。

1986年 60歳定年の努力義務化
1998年 60歳未満の定年の禁止
2000年 定年の引き上げ等による高年齢者雇用確保措置導入の努力義務化
2006年 定年の引き上げ等による高年齢者雇用確保措置導入の法的義務化
2013年 希望者全員を対象とした65歳までの雇用確保措置の義務化
2021年 65歳から70歳までの就業機会確保措置の努力義務化

このあいだ、労働者の定年後の生活の支えとなる公的年金も制度改革が進み、2025年には年金の受給開始は原則65歳以降となることが決まっています。

現在企業が就業規則の中で対応すべき最新の事項は「65歳までの雇用確保措置」と「70歳までの就業機会確保措置」です。次に内容を詳しく見ていきましょう。

高年齢者雇用安定法〜65歳までの雇用確保義務〜

法改正に対応するためのパターンは3つ

2013年施行の「雇用確保義務」の対象は定年を65歳未満に定めている事業主です。
定年を定めていない、または定年を65歳以上にしている事業主は、本義務について対策が不要となります。

内容は下記2つです。

  • 60歳未満の定年禁止 (高年齢者雇用安定法8条)
    事業主が定年を定める場合は、その定年年齢を60歳以上とすること。
  • 65歳までの雇用確保措置 (高年齢者雇用安定法9条)
    以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講ずること。
    ① 65歳までの定年引き上げ
    ② 定年制の廃止
    ③ 65歳までの継続雇用制度の導入(原則として希望者全員)

それぞれの措置の詳細は後述します。

事業主の対応状況

厚生労働省の調査で、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済み企業は全体の99.7%(2021年データ)となっており、2025年の完全施行を前に着実に対応が進んでいます。

厚生労働省の調査で、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済み企業は全体の99.7%(2021年データ)となっており、2025年の完全施行を前に着実に対応が進んでいます。

  1. 65歳までの定年引き上げ (24.1%)
  2. 定年制の廃止 (4.0%)
  3. 65歳までの継続雇用制度の導入(71.9%)

高年齢者雇用確保措置を「継続雇用制度の導入」により実施している企業が7割となっています。

参考:令和3年「高年齢者雇用状況等報告」|厚生労働省

違反した場合の罰則

65歳までの高年齢者雇用確保措置は法的義務です。

公共職業安定所(ハローワーク)や労働局から繰り返し指導を受けたにもかかわらず対応を行わない企業には厚生労働大臣から勧告書の発出が行われ、勧告に従わない場合は企業名の公表という罰則が課せられる可能性があります。

また、措置未対応の場合、労働者や労働組合から義務違反が法的に争われる可能性もあり、裁判費用や係争期間中の労働者の賃金等費用が発生することがあります。

現時点でまだ対応が進んでいない事業所は速やかに対応を検討し、就業規則の変更等の手続きを行いましょう。

高年齢者雇用安定法〜70歳までの就業確保措置(努力義務)〜

法改正に対応するためのパターンは5つ

2021年施行の改正高年齢者雇用安定法で、65歳までの「雇用確保義務」に加え、65歳から70歳までの就業機会確保のため下記いずれかの措置の努力義務が新設されました。

対象は定年を70歳未満に定めている事業主です。
定年を廃止もしくは定年を70歳以上にしている事業主は、努力義務の対策が不要となります。

70歳までの就業機会確保措置 (高年齢者雇用安定法10条の2第1項) は、以下のいずれかを対象としています。

  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
     ※特殊関係事業主に加え、他の事業主による継続雇用も含む
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

それぞれの措置の詳細は後述します。

参考:「高年齢者雇用安定法改正の概要(令和3年4月1日施行)|厚生労働省」

違反した場合の罰則

本改正よる70歳までの就業機会確保措置は、努力義務として規定され、付随する罰則規定は現在のところありません。厚生労働省は、本努力義務について「施行時点である2021年4月までに措置が講じられていることが望ましい」としながらも、検討中や労使での協議中、検討開始直後と言った状況も想定しています。

ただし、70歳までの安定した就業機会の確保のため、ハローワークや労働局は
・必要に応じた指導・助言
・状況が改善しない場合は、措置を講ずべきことの勧告
・高年齢者就業確保措置の実施に関する計画の作成の勧告
を行うとしています。

本努力義務は今後法定義務化されることも十分に予想されます。今のうちから社内で検討し、措置の導入手続きを進めましょう。

参考:「高年齢者雇用安定法Q&A」Q1−2|厚生労働省
「高年齢者雇用安定法改正の概要(令和3年4月1日施行)|厚生労働省」

企業の対応状況

厚生労働省の調査で、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済み企業は全体の25.6%(2021年6月データ)となっています。

一方「66歳以上まで働ける制度のある企業」は全体の38.3%で、70歳とまでは行かずとも、65歳以上の就業確保措置は段階的に導入が進んでいることがわかります。

今後、2021年4月の同努力義務の施行にともない、更なる数値の改善が見込まれます。

参考:令和3年「高年齢者雇用状況等報告」|厚生労働省

法改正にともない企業が対応すべきこと

高年齢者者雇用安定法の改正にともない、定年制度と就業規則に関して企業が対応すべきことは下記のとおりです。

  1. 「65歳までの雇用確保義務」と「70歳までの就業確保措置」を正しく理解する
  2. 自社の人事制度および雇用状況を把握し、自社の法改正対応方針を検討する
  3. 自社にあった制度設計を行い、就業規則変更案の作成・明文化の準備を行う
  4. 必要に応じて労使協議等の手続きを行う
  5. 就業規則の変更手続・労基署への届出・従業員への周知を行う

就業規則の定め方と記載例(65歳までの雇用確保義務への対応措置パターンは3つ)

「65歳までの雇用確保義務」への対応措置の詳細を企業のメリット・デメリットと一緒に確認しましょう。

①65歳までの定年の引き上げ

措置の一つは、65歳未満に定めていた定年年齢を65歳まで引き上げる方法です。

定年を65歳と定めている企業は順調に増えており、2022年現在では企業全体の20.1%と5社に1社が導入していることになります。中小企業では21.7%、大企業では13.7%と、中小企業での導入が進んでいます。

65歳までの定年の引き上げ:企業にとってのメリット・デメリット

メリット
  • 制度の導入・運用がもっとも簡単
  • 全社員に対して年金受給開始年齢まで安定した雇用を保障でき、
    優秀な人材の流出を防ぐことができる
  • 65歳を新たな定年退職の年齢として人事制度を再設計し、
    高年齢社員を活かした、計画に基づく制度運用ができる
デメリット
  • 人件費増となる傾向がある
  • 65歳まで年齢等に応じた働き方や業務内容・処遇を見直すチャンスがない
  • 全社員に対して同じ定年が適用されるため、賃金とパフォーマンスのバランスが悪い
    高年齢社員の雇用が続くことで若手のモチベーション低下を招くことがある
  • 必要に応じて退職金制度の見直しが必要※

※人件費抑制の観点から退職金に関する規程に、60歳以降の退職金上積の停止などを盛り込むケースがあります。

参考:令和3年「高年齢者雇用状況等報告」|厚生労働省

②定年制の廃止

措置の二つ目は、定年を廃止し、労働者から退職の申し出があるまで年齢に関わらず雇用し続ける制度です。

厚生労働省の調べでは、中小企業を中心に定年を廃止する企業は年々微増の傾向にあり、企業全体の3.1%が定年を廃止しています。特に2020年から2021年では4,468社から884社増えて5,352社になりました。

定年の廃止:企業にとってのメリット・デメリット

メリット
  • ・働く意欲のある高年齢労働者の雇用機会を確保することで、人手不足の解消・新規採用コストの削減ができる
  • 高齢社員の意欲を引き出し、優秀な高齢者の流出を防げる
  • 先進的な取り組みを行う会社としてイメージアップに繋がる
  • これまでの就業で培った経験や知識・技術などの資産をもった社員を雇用し続けることができる。
デメリット
  • 世代交代が進みにくくなる
  • 人件費増となる可能性がある
  • 高齢化に伴う仕事の効率性の低下、健康への配慮などの課題が生じる可能性がある
  • 社員の退職時期が不定となるため、要員計画が立て難い
  • 年齢による区切りを持たないため、普段から労使双方が働き方や業務内容についてお互いの要望のすり合わせを行う必要がある※

※退職や労働条件の変更について、加齢に伴う能力不足を理由として企業側から申し出る場合は、正当かつ合理的かどうか相当程度慎重な検討が必要となります。

▼定年制度について詳しく知りたい方はこちら

③継続雇用制度の導入

措置の三つ目は、現状の定年制(60歳以上)を維持しつつ、希望労働者を対象とした65歳までの継続雇用制度を導入することです。

2022年の厚生労働省の調べでは、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業のうち「継続雇用制度」を選択している割合は71.9%で、もっとも一般的な選択肢となっています。

継続雇用制度の適用労働者限定について(経過措置の内容)

65歳までの雇用確保措置のための「継続雇用制度」は、原則として希望者全員を対象としなければなりません。

ただし、2013(平成25)年までに労使協定によって制度適用対象者の基準を定めていた場合は、その基準適用の年齢を段階的に引き上げることを条件に、制度適用対象者を限定することが認められています。

簡単に言えば、企業側で設定した然るべき基準を満たす労働者のみを継続雇用制度の対象労働者とすることができる仕組みです。経過措置が終了する2025年4月以後は希望者全員を継続雇用制度の対象とする必要があります。

<継続雇用制度対象者の基準を適用する労働者の年齢※の段階的引き上げ>
2013年4月1日〜2016年3月31日 61歳以上の労働者
2016年4月1日〜2019年3月31日 62歳以上の労働者
2019年4月1日〜2022年3月31日 63歳以上の労働者
2022年4月1日〜2025年3月31日 64歳以上の労働者
2025年4月1日〜 経過措置撤廃
継続雇用制度の対象者は希望者全員へ

※労働者の年齢は、こちらも経過措置中となっている老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢に連動しています。

継続雇用制度の種類

継続雇用制度には大きく分けて「勤務延長制度」と「再雇用制度」があります。2018年の人事院による調査では、定年後の継続雇用制度を設けている企業のうち、「勤務延長制度」の導入割合8.0%に対し、「再雇用制度」は95.3%となっています(並行導入あり)。

参考:平成30年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要|人事院

<勤務延長制度と再雇用制度の違い>
勤務延長制度
  • 定年を迎えた社員について、本人希望に基づき、継続雇用とする制度(退職手続は取らない)
  • 雇用形態は維持し、役職・賃金・仕事内容は大きく変わらないため、実質上の定年延長にあたる
  • 業務内容などにより、定年退職予定の社員の後任を見つけることが難しい場合に、当該労働者を定年後もそのまま雇用するケースを想定した制度
  • 役職定年制度と組み合わせて導入するケースもある
  • 退職金は延長期間終了の退職時に支払われる
再雇用制度
  • 定年を迎えた社員について、本人希望に基づき、再雇用とする制度(退職手続後、新たな労働契約を別途締結する)
  • 雇用形態、労働条件、役職・賃金・仕事内容は労使で合意した新しい契約による
  • 再雇用後の雇用形態は契約社員(有期雇用)・嘱託社員・非常勤社員などとする企業が多い
  • 退職金は退職時に支払われる

継続雇用制度:企業にとってのメリット・デメリット

継続雇用制度
<勤務延長制度>
継続雇用制度
<再雇用制度>
メリット
  • 既存の定年制度に勤務延長制度を追加すれば良いため、導入しやすい
  • 定年を機に労働者に勤務延長か定年退職かの希望を確認できる
  • 両者の合意により、後任を見つける事の難しいポジションで定年以降も熟練労働者を確保できる
  • 既存の定年制度に再雇用制度を上乗せするため、制度設計しやすい
  • ほかの措置に比べ、人件費増額を抑えることができる
  • 定年を機に労使で働き方・業務内容についてお互いの要望のすり合わせを行う事ができる
  • 高年齢者特有の課題に配慮した人事制度設計ができる
デメリット
  • 人件費増となる可能性がある
  • ・経過措置終了後は希望者全員に対して同じ制度が適用されるため、賃金とパフォーマンスのバランスが悪い高年齢社員の雇用が続くことで若手のモチベーション低下を招くことがある
  • 必要に応じて退職金制度の見直しが必要※定年の引き上げと同様
  • ほかの措置に比べ、処遇面で折り合いがつかない場合の退職リスクが大きい
  • 再雇用後の処遇によっては高年齢者のモチベーションを十分に維持できない可能性がある
  • 同一労働同一賃金の観点から制度設計に十分に配慮する必要がある

継続雇用制度の雇用先の範囲:特殊関係事業主(子会社・関連会社など)

高年齢者雇用安定法の2013年改正で、継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲が特殊関係事業主まで拡大されました。

特殊関係事業主とは自社の①子法人等、②親法人等、③親法人等の子法人等、④関連法人等、⑤親法人等の関連法人等を指し、詳細は厚生労働省令に定められています。

参考:高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~|厚生労働省

70歳までの就業確保措置への対応措置パターンは5つ

<70歳までの就業確保措置への対応パターン>

  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
     ※特殊関係事業主に加え、ほかの事業主による継続雇用も含む
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

①〜③は65歳までの雇用確保義務と同じく、企業の雇用により就業機会確保に努める措置です。企業にとってのメリット・デメリットは前述したものとほぼ変わりません。

④と⑤は雇用以外による就業機会確保の制度であり「創業支援等措置」と呼ばれています。

①〜⑤のうち、企業は複数措置を併設・併用して就業確保を図ることが可能ですが、その場合は個々の労働者と十分な話し合いを行ってどの措置を適用するか合意する必要があります。

①70歳までの定年の引き上げ

厚生労働省の令和3年「高年齢者雇用状況等報告」によれば、定年を70歳以上としている企業は全体の1.9%で未だ多くはありませんが、従業員30人以下の企業では2.4%と平均より高い割合になっています。

参考:令和3年「高年齢者雇用状況等報告」|厚生労働省

②定年制の廃止

「65歳までの雇用確保義務への対応措置パターン3つ」の②定年制の廃止と同様です。

③70歳までの継続雇用制度の導入(他の事業主によるものを含む)

70歳までの就業機会確保義務では継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲に「他の事業主」が含まれました。

対象となる高年齢者の年齢 継続雇用できる事業主の範囲
60歳以上65歳未満が対象の場合 自社、特殊関係事業主
65歳以上70歳未満が対象の場合 自社、特殊関係事業主および他の事業主

自社以外での継続雇用を制度化する場合は、自社と他の事業主とのあいだで「65 歳以上継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に(他の事業主が)引き続いて雇用すること」についての契約が必要です。

④および⑤の「創業支援等措置」の導入

創業支援等措置は、2021年の法改正で新たに定義された「雇用によらない」就業機会確保の制度です。

  1. ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度
  2. ⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
     a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
     b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

メリットとしては、企業の負担が多い雇用という形態を取らずに、高年齢者の就業機会確保がはかれること。また、労働者側でも必ずしも労働契約に縛られずに、自らの能力を活かして引き続き活躍できる場が広がることがあげられます。
デメリットとしては、これまでにない新しい制度となるため、参考となる事例が少ないこと。また、制度導入のための各種手続きに時間と労力が必要になることがあげられるでしょう。

創業支援等措置導入のための手続き

措置導入にあたっては、要領に沿って下記手続きが必要です。

1)計画の作成
2)過半数労働組合等※の同意を得る
3)計画の周知

※「過半数労働組合等」
労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者

また、事業主と事業主が委託・出資する団体(高年齢者の就業先)とのあいだでの契約、対象高年齢者と業務委託契約や社会貢献活動に従事する旨の契約等を交わす必要があります。

創業支援等措置の詳細は下記の厚生労働省のリーフレットを参考にされてください。

参考:「高年齢者雇用安定法改正の概要(令和3年4月1日施行)|厚生労働省」
「創業支援等措置の実施に関する計画の記載例等について|厚生労働省」

就業確保措置では適用対象者の基準を設ける事が可能

70歳までの就業確保措置は、65歳までの雇用確保義務と異なり現時点では努力義務のため、対象者を限定する基準を設けることが可能です(①定年の引き上げおよび②定年制の廃止を除く)。

<対象者基準を設ける場合の留意点>

○ 事業主と過半数労働組合等との間で十分に協議した上で、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましい
○ 事業主が恣意的に一部の高年齢者を排除しようとするなど、法の趣旨や、他の労働関係法令・公序良俗に反するものは認められない

参考:「高年齢者雇用安定法改正の概要(令和3年4月1日施行)|厚生労働省」

高年齢者雇用安定法対応:定年制度の就業規則への反映

高年齢者雇用安定に関する措置等を実際就業規則にどう落とし込むか、厚生労働省の作成しているモデル就業規則を参考に見てみましょう。

参考:モデル就業規則について|厚生労働省

就業規則への記入例 (定年を満65歳もしくは70歳とする場合)

(定年等)
第◯条 労働者の定年は、満65歳(70歳)とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

就業規則での対応 (定年を撤廃する場合)

定年条項の撤廃となるため、就業規則の該当条項の削除を行います。
また、すでに定めのある諸規程(給与規程や退職金規程など)に、定年に関連した記載があれば修正が必要になります。

就業規則への記入例 (継続雇用制度を導入する場合)

例1)定年を満60歳とし、その後希望者を65歳まで継続雇用する例

(定年等)
第◯条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引続き雇用されることを希望し、解雇事由または退職事由に該当しない労働者については、満65歳に達した日の属する月の末日まで継続雇用する。

例2)定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例
※満65歳以降の継続雇用に対象者基準を設ける場合

(定年等)
第◯条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引続き雇用されることを希望し、解雇事由または退職事由に該当しない労働者については、満65歳に達した日の属する月の末日まで継続雇用する。

3 前項の規定に基づく継続雇用の満了後に、引き続き雇用されることを希望し、解 雇事由又は退職事由に該当しない労働者のうち、次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれを継続雇用する。
(1)過去◯年間の人事考課が◯以上である者
(2)過去◯年間の出勤率が◯%以上である者
(3)過去◯年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないと認められた者

就業規則への記入例 (70歳までの就業確保措置への対応)

定年を満65歳とし、希望者の意向を踏まえて継続雇用または業務委託契約を締結する例
※満65歳以降の継続雇用・業務委託契約に対象者基準を設ける場合

(定年等)

第◯条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者のうち、次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれを継続雇用する。
(1)過去◯年間の人事考課が◯以上である者
(2)過去◯年間の出勤率か◯%以上である者
(3)過去◯年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないと認められた者

3 第1項の規定にかかわらず、定年後に業務委託契約を締結することを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者のうち、次の各号に掲げる業務について、業務ごとに定める基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれと業務委 託契約を継続的に締結する。なお、当該契約に基づく各業務内容等については、別途定める創業支援等措置の実施に関する計画に定めるところによるものとする。
(1)◯◯業務においては、次のいずれの基準にも該当する者
  ア 過去◯年間の人事考課が◯以上である者
  イ 当該業務に必要な◯◯の資格を有している者
(2)△△業務においては、次のいずれの基準にも該当する者
  ア 過去◯年間の人事考課が◯以上である者
  イ 定年前に当該業務に◯年以上従事した経験及び当該業務を遂行する能力があるとして以下に該当する者
1 XXXXXX
2 XXXXXX

就業規則改訂の手順と注意点

最後に、就業規則を変更する際の手順を確認しておきましょう。

10 人以上の常用労働者を使用する事業主は、就業規則の作成・届出の義務がありますが、法定の事項を変更した場合も同様になります。

「定年」にかかる事項は就業規則の法定記載事項である「退職に関する事項」等にあたるため、就業規則変更後は事業所を所管する労働基準監督署長に速やかに届け出る必要があります。

※常時雇用する労働者が10人未満の事業所は届出の必要はありません。

就業規則改定の手順

1)就業規則変更について、労働者側と十分協議の上「意見書※」を受領する。
労働者の過半数で組織する労働組合(組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見書が必要です。

2)①就業規則変更届、②上記意見書、③就業規則変更部分がわかる書面(新旧対応表など)を添付し、改定後の就業規則を労働基準監督署へ提出する。
変更にともない「再雇用規程」「嘱託職員就業規則」など、新たに作成した規定がある場合はそれらも届け出る必要があります。

3)改訂後の就業規則(および付属規則)について従業員に周知を行う
事業所の見やすい場所に掲示する、就業規則をメールで交付する、デジタルデータで従業員がアクセス可能な場所に保管するなどの方法で周知を行います。

就業規則改訂の際の注意点

就業規則改訂・変更の際には、労働者にとって不利益変更とならないよう注意する必要があります。もし、やむをえず下記のような不利益となる変更を行う場合は、慎重に手続きを進めましょう。

ケース1)就業規則に定年制度の記載がなかった場合で新たに定年を設ける場合

就業規則で定年を定めていない場合でかつ個別の雇用契約書で定年に関する定めもない場合は、定年制度が存在しなかったと理解することになります。その場合、新たに定年の定めを設けることは不利益変更となります。

ケース2)これまで就業規則に定めていた定年を引き下げる場合

たとえば従業員の年齢層の変化にともない、これまで就業規則で70歳に定めていた定年年齢を65歳に引き下げ、65歳からは新たに継続雇用制度(対象者基準あり)を設けることにする場合が考えられます。その場合も不利益変更と判断される可能性が高いでしょう。

就業規則の不利益変更が認められるには合理的な理由が必要

労働契約法では、就業規則の不利益変更について下記の記載があります(第10条抜粋)。その事情に照らし合理的な理由があり、労働者に周知されていれば就業規則の不利益変更は可能と読むことができます。

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

ケース1、ケース2とも就業規則の変更はその事情によって、認められる可能性もあります。専門家や労働基準監督署への相談も検討し、慎重に手続きを進めてください。

参考:労働契約法|e-Gov 法令検索

就業規則と定年制度に関するよくある質問

Q 就業規則に継続雇用制度を定めることで企業が受け取れる助成金はあるか?

A 「65歳超雇用推進助成金」があります。65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備など、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して支給されるもので、以下3つのコースがあります。
1)65歳超継続雇用促進コース
2)高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
3)高年齢者無期雇用転換コース

詳細:65歳超雇用推進助成金|厚生労働省

Q 契約社員やパートタイマー、派遣社員にも定年制度と高年齢者雇用確保措置は適用されるか?

A 定年制度は原則として、期間の定めのない雇用契約を結ぶ労働者に適用されます。そのため、有期雇用契約を結んでいる契約社員やパートタイマーには定年、および高年齢者雇用確保の措置等の対象とならないと理解されています。ただし、無期転換している場合や、有期雇用契約が反復更新されて無期雇用と同じような実態が認められる場合はその限りではありません。派遣社員は、派遣元の就業規則に従うことになり、高年齢者雇用確保措置の実施義務も派遣元事業主にあります。

Q 希望者に対し定年後の継続雇用の制度があるが、希望はいつ・どのように確認すれば良いか?

A 法律上の決まりはありません。ただし、実務上社内でルールを作成し、従業員に周知しておくことが望ましいでしょう。就業規則や関連規定(再雇用規定など)に継続雇用制度利用の希望申し込み方法や期限を記載することも可能です。定年後、継続雇用後の就業希望・雇用機会確保措置の利用有無を確認する面談の導入など、企業内の仕組みづくりも検討しておきましょう。

Q 定年後に再雇用した労働者の無期転換に関する特例とは?

A 改正労働契約法に定める、有期雇用契約が反復更新された場合の無期転換ルールの適用除外のことです。無期転換ルールは「同一の使用者とのあいだで、有期労働契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合」に労働者の申込みにより、無期労働契約に転換となるものです。定年後、再雇用で有期契約となった(契約社員やパートなど)高年齢労働者も原則として適用されます。ただし、「継続雇用の高齢者に関する申請書(第二種計画認定・変更申請書)」の届出を行い、都道府県労働局長の認定を受けていれば、定年後に引き続いて雇用される期間は無期転換申込権が発生しないという特例があります。有期雇用による継続雇用制度を導入した企業は、速やかに上記認定を受けましょう。

参考:「高年齢者雇用安定法改正の概要(令和3年4月1日施行)|厚生労働省」
高度専門職・継続雇用の高齢者に関する 無期転換ルールの特例について|厚生労働省

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まとめ

就業規則の絶対的記載事項である定年を定める場合の記載方法や、2022年最新の高齢法対応定年制度のパターンに沿って説明しました。ほとんどの企業においては、すでに65歳までの雇用確保義務への対応が完了しています。2021年に施行された「70歳までの就業機会確保措置」はまだ努力義務の位置付けですが、近い将来義務化されることも想像に難くありません。
この法改正の機会に、シニア層の活用を念頭においた制度設計を検討されてはいかがでしょうか。

▼『高年齢者雇用安定法改正』について詳しく知りたい方はこちら

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執筆者
阿部雅子
人事/キャリアコンサルタント
人事担当として約12年強、採用から人事管理、退職までをサポート。業界はIT系スタートアップ/ブライダル/政府系研究機関等。国家資格キャリアコンサルタント。中小企業での各種雇用調整助成金の受給やコンプライアンスのための規程整備等の経験が豊富。