退職金なしの会社が20%!不安のない老後のための資金準備を解説

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終身雇用が崩壊しつつあり、新卒から定年まで同じ会社に勤務する人ばかりではなくなってきています。そのため、退職金制度のない会社や、退職金の支給金額を減らす会社も増えています。
この記事では退職金制度のない会社の概要と、勤務先に退職金がない人に向け、老後の資金を準備する方法について解説します。

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  • 【この記事を読んでわかること】
  • 日本の会社の約20%には退職金制度がない
  • 退職金で制度がある会社でも金額は減少傾向
  • 勤務先に退職金がなければ計画的に老後資金準備が必要

退職金なしの会社の割合

コイン

日本では退職金なしの会社の割合は約20%です。日本の会社の多くは退職金制度を導入していますが、退職金制度のない会社もあります。

退職金制度がない会社とは

以下は、企業規模(従業員数)別の退職金制度のある企業の割合を表にしたものです。日本にある会社のうち、退職金制度のない会社は20%ほどです。企業規模別に見ると、従業員数が少ない会社ほど、退職金制度のない会社が多いことがわかります。

従業員数 退職金制度のある割合
1,000人以上 92.3%
300人~999人 91.8%
100人~299人 84.9%
30人~99人 77.6%
全体平均 80.5%

参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」

退職金制度がなくても違法ではない

企業の退職金の支払いは労働法などで義務づけられておらず、退職金制度がなくても違法ではありません。退職金制度は住宅手当や弔慰金のような企業の福利厚生の一種であり、導入するかどうかは企業の経営方針に委ねられるためです。

また、退職金制度を導入する場合、支給金額などの内容を企業が定めて、就業規則の退職金規定に明示する必要があります。ただし、一度定めた退職金制度は規定どおりに支給しなければなりません。

退職金制度がないことのメリット

パソコン

退職金制度がないと将来に不安を感じる人も少なくないでしょう。しかし、退職金がないことはマイナス面ばかりではありません。ここでは、退職金がないことのメリットを紹介します。

毎月の給与が高くなる場合がある

退職金は給与の後払い的な性質があると言われており、退職金の積立分を給与に上乗せする企業もあります。また、最近では転職する人が多くなり、退職金制度があることよりも、毎月の給与が高いほうがよいと考える人も少なくありません。

ただし、給与が増えると税金や社会保険料も増えて手取りが思ったほど増えません。また、老後資金を自分で準備しなければならないことも頭に入れておく必要があります。

老後の資金計画が立てやすい

企業が一度決めた退職金制度を減額するなどの不利益変更は、簡単にはできません。しかし、業績悪化で「退職金制度を存続したら雇用の継続もできない」のようなケースでは、制度廃止や減額などの変更が起こりえます。

「退職金で住宅ローンを繰り上げ返済する」などの予定を立てていた場合、退職金以外の資金を充てなければならず、計画が大幅に狂います。これに対し、最初から退職金制度がなければ、退職金を当てにしない老後の生活設計が可能です。

退職金に関する手続きが不要

退職金をもらうと確定申告などの手続きが必要になるケースがありますが、退職金がなければ不要です。また、退職金を一括で受け取る場合、事前に勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」という書類を申告しなければなりません。

通常、支給された退職金には退職所得控除が適用されるため、退職金にかかる所得税は給与などに比べてわずかです。しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、退職金の支給額に20.42%をかけた所得税が源泉徴収されます。払いすぎた所得税を取り戻すには、確定申告が必要です。

勤務先に退職金制度がない場合の対策3つ

パソコンを打つ人

勤務先に退職金制度がない場合、計画的に老後資金を準備していく必要があります。自分でできる老後対策を3つ紹介します。

1.自力で老後資金を準備する

定年退職時に退職金がもらえない場合、収入のある現役時代に目標を立てて老後資金をコツコツ準備しましょう。目標もなくただ生活費の残りを貯めようとしても、まとまった資産は作れません。

家計を見直し、老後資金のために回すお金を確保して、残ったお金で生活するようにしましょう。老後のために必要な資金の目安や、準備の方法は詳しく後述します。

2.副業・兼業で収入を増やす

最近では国によって副業・兼業の解禁が推奨され、2018年には厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、モデル就業規則から「副業禁止」の条項が削除されました。これを受けて副業を解禁する企業が増加し、副業やダブルワークに取り組む人も増えています。

勤務先に退職金制度がない場合、無理のない範囲で副業によって収入を増やし、老後資金の財源に回すのも対策の1つです。副業を行う場合、本業に支障のないように配慮し、両立できるようにしましょう。

参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

3.退職金のある会社に転職する

退職金制度がないことがどうしても不安な場合、退職金制度がある会社に転職することも選択肢となります。先述の通り、約80%の企業には退職金制度があるため、当てはまる会社を探すのはそれほど難しくないでしょう。

ただし、同じ退職金制度がずっと存続するとは限らず、変更される可能性がある点に注意が必要です。

老後のために必要な資金の目安

家具

老後の資金として準備する金額は、毎月の収支の不足分が基本です。老後の収支を総務省「2021年家計調査年報」のデータから紹介するので、参考にしてください。

このデータでは夫婦世帯の持ち家率は91.6% 、単身世帯で80.2%[となっており、持ち家が前提の家計収支である点に注意が必要です。老後の住まいに賃貸住宅を考えている人は、家賃分も含めて計画を立てるようにしましょう。

また、老後資金は毎月の生活費以外に、自宅のリフォーム費用や高齢者施設への入居費用なども考えておく必要があります。

老後の生活費の目安・夫婦2人世帯の場合

総務省家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)によると、夫婦高齢者世帯(無職世帯・65歳以上の夫婦2人)では1ヶ月の手取り収入は20万5,911円、消費支出は22万4,436円です。月あたりの収支は、1万8,525円のマイナスです。

老後資金として準備すべき金額の目安は、月あたりの収支のマイナス分に30年(360ヶ月)を乗じた額です。算出すると666万9,000円(1万8,525円×12ヶ月×30年)です。この金額にさらに一時金として必要な金額を加えて見積もります。

老後の生活費の目安・単身世帯の場合

上記と同じ調査のよると、65歳以上の単身無職世帯では、1ヶ月の手取り収入は12万3,074円、消費支出は13万2,476円です。月あたりの収支は9,402円のマイナスです。

この赤字の30年分は338万4,720円(9,402円×12ヶ月×30年)となります。高齢者施設の入居や自宅のリフォームを考えている人は、その分も加えて見積もります。

会社に退職金制度のない人が老後資金を準備する方法4選

コーヒーと本

会社に退職金制度がない場合、自力で老後資金の準備を行う必要があります。老後資金は遠い将来に受け取るため、受け取り時に物価が上昇していると資産価値が目減りするリスクがあります。

できればiDeCoやつみたてNISAでインフレ対策をしたいところですが、リスクに慣れない人は財形貯蓄や投資を組み合わせるのも1つの方法です。

1.財形貯蓄

財形貯蓄は給与天引きで行う貯蓄制度です。老後資金を準備する場合には「一般財形」または「年金財形」が利用できます。財形貯蓄は制度を採択している企業の従業員だけが利用できるため、勤務先に財形がなければ定期預金などで準備します。

いずれにしても長引く低金利でお金はほとんど増えません。

一般財形貯蓄

一般財形は使途が限定されない財形貯蓄で、始めて1年経過すれば自由に払い出しができます。利息には20.315%の税金が源泉徴収されます。

年金財形貯蓄

年金財形は60歳以降に年金として受け取るための財形貯蓄です。「住宅財形貯蓄」と合計して550万円の元利合計に対して利子非課税となります(保険商品などの場合は払込額385万円までが非課税)。ただし、60歳前に引き出す場合、利子に課税されます。

2.個人年金保険

個人年金は個人が民間の保険会社と契約する、老後資金準備のための貯蓄型保険商品です。支払う保険料は保険料控除の対象となり、死亡保障などの一般生命保険料控除と別枠の個人年金保険料控除が利用できます。

個人年金保険は毎月決まった保険料が引き落とされるため、貯金が苦手な人でも計画的に老後資金を準備できます。しかし、財形貯蓄同様に低金利による運用難で、支払った保険料と同程度の年金しか受け取れません。

3.iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金に上乗せする私的年金制度の一種です。 加入者自身が運用を行い、その成果である年金資産を60歳以降に年金または一時金で受け取ります。iDeCoには以下の3つの税制優遇があります。

  1. 掛金は全額所得控除の対象
  2. 運用中の利益には課税されない
  3. 受け取り時にも所得控除が適用される

上記のうち、支払う掛金が全額所得控除になる点は特に大きなメリットです。たとえば、企業年金のない会社の従業員(年収500万円)が毎月2万3,000円の掛金を積立てた場合、1年間に所得税・住民税が5万5,700円の節税になります。

iDeCoの運用商品は、定期預金などの元本確保型と投資信託から選択できます。投資信託は元本保証ではありませんが、短期の値動きにとらわれずに積み立てると、インフレリスクから資産を守る効果が期待できます。

ただし、iDeCoの積立金は60歳までは引き出しができない点に注意が必要です。

4.つみたてNISA

つみたてNISAとは、非課税投資枠が年間40万円、投資期間が最長20年のNISA(少額投資非課税制度)の一種です。 つみたてNISAで買い付けた商品から生じた運用益には課税されないのがメリットです。投資方法が積立に限られ、長期での資産形成を目指す制度なので、老後資金準備にも適しています。

つみたてNISAのメリット

つみたてNISAの投資対象は、金融庁が選定した長期の資産形成に適した投資信託またはETFです。元本保証ではありませんが、長期で運用することでインフレリスクにも対応できます。

また、長期の運用成績が良好な商品に絞られているため、投資初心者でも選びやすいです。運用資産は都合のよいタイミングで換金できるため、急に資金が必要になったときにも活用できます。

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退職金制度がある場合の注意点

電球

近年では、退職金制度がある会社でも、退職金の支給額は減少傾向にあります。また、勤続年数によっては、退職金が支払われない可能性もあります。この項目では、退職金制度がある場合でも注意したい点について解説します。

退職金支給額は減少傾向の推移

退職金制度がある会社でも、その支給額は減少傾向にあります。以下は、厚生労働省「就労条件総合調査」の各年の結果から大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職の場合の退職金の推移の表です。調査の対象は、勤続20年以上かつ45歳以上の従業員です。

データによると、平成15〜30年の15年間で711万円、退職金額が下がっています。現状では、勤務先に退職金制度があっても、将来的に減額される可能性はゼロではありません。また、退職金を当てにし過ぎず、自分で老後資金の準備を進めていくことも必要です。

退職金額
平成15年 2,499万円
平成20年 2,280万円
平成25年 1,941万円
平成30年 1,788万円

参考:厚生労働省「就労条件総合調査」

退職金制度があっても勤続年数が短いと支払われない

退職金制度がある会社であっても、自己都合での退職かつ勤続年数が短い場合、支払われないケースがほとんどです。

以下は中央労働委員会の「退職一時金受給資格付与に要する最低勤続年数」のデータです。半数以上の会社が、自己都合退職の退職金支給に必要な勤続年数を「3年以上」と定めています。退職金が支給されるとしても多くの場合、勤続年数が短いと金額はわずかです。退職金の支給条件は就業規則に記載されているので、確認しておきましょう。

会社都合(定年含む) 自己都合
1年未満 1年~2年 2年~3年 3年以上 1年未満 1年~2年 2年~3年 3年以上
55.5% 29.5% 4.1% 11.0% 7.5% 24.0% 15.1% 50.7%

参考:中央労働委員会「令和3年賃金事情等総合調査」

まとめ:会社に退職金がない人はすぐに老後資金準備を始めよう

退職金制度は企業に対して法的に義務づけられているものではなく、現在でも約20%の会社に退職金制度がありません。また、退職金制度のある会社に勤務している人も、今後の不利益な変更に注意が必要です。

会社に退職金がない場合、退職金を当てにしないライフプランを立て、早くから老後資金準備を始めましょう。

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執筆者
松田聡子
ファイナンシャルプランナー
明治大学法学部卒業後、証券システムのITエンジニア、国内生保の法人コンサルティング営業を経て2007年よりファイナンシャル・プランナーとして独立。コンサルティングのほか、主な活動は企業型確定拠出年金導入企業へのセミナー講師、マネーサイトへの執筆など。年金・資産運用・保険などに精通、iDeCoやNISAなどの制度を活用した人生100年時代の資産形成をアドバイスしている。