退職金の預け先は?年金と合わせた老後生活のシミュレーション

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退職金はセカンドライフの貴重な資金です。年金だけで生活するのが難しい場合や施設に入居するような場合に、退職金は大いに役立つでしょう。退職金を有効活用するためにも、老後の生活設計を早めに考えておく必要があります。この記事では、セカンドライフの家計収支をシミュレーションし、退職金の有利な預け先を紹介します。

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老後資金2,000万円問題に代表されるように、老後の生活費はひとりあたり数千万円が必要と言われています。
漠然とした不安を抱えるのは辛いものです。まずは現状を把握し、どのような対策が必要なのかを相談してみましょう。

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  • 【この記事を読んでわかること】
  • 退職金には多くの税金はかからない
  • 老後に公的年金だけで生活するのは難しい
  • 退職金を預貯金だけで運用するとインフレリスクに勝てない

退職金の手取りの計算方法

退職金の預け先は?年金と合わせた老後生活のシミュレーション

最初に、退職金の手取りの計算方法を解説します。実際に試算するには勤務先の退職金制度を確認し、支給される見込額を調べておきましょう。なお、退職金の手取りについては「退職金の手取りはいくら?税金の計算方法をわかりやすく解説」で詳しく解説しているので、参考にしてください。

退職金にかかる税金

退職金には一括で受け取る一時金以外に分割で受け取る退職年金があり、それぞれ税金のかかり方が異なります。ここでは、退職一時金にかかる税金を解説します。退職一時金の受け取り時には、所得税と住民税が差し引かれます。

所得税

退職金は個人の老後にとって大切な資金であるため、給料などに比べて手取りが多くなる仕組みになっています。退職一時金にかかる所得税は、ほかの所得と分けて単独で計算する方式(分離課税)です。

退職金にかかる所得税を計算するには支給額から課税対象となる金額(課税退職所得金額)を求め、税率を掛けます。

課税退職所得金額 = (退職金の支給額 - 退職所得控除額) × 1/2
所得税額 = 課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額
復興特別所得税額 = 所得税額 × 2.1%

退職所得控除額は、勤続年数によって以下のように算出します。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数
20年超800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

参考:国税庁「退職金と税」

勤続年数の1年未満の端数は1日でも1年として計算します。勤続20年10ヶ月であれば、21年です。

住民税

住民税は、所得税の計算で使用した課税退職所得金額に税率を掛けて求めます。住民税の税率は一律10%です。

退職金の手取りを試算

それでは、実際に退職金にかかる税金を求め、手取り額を試算してみましょう。前提条件は以下のとおりです。

  • 勤続年数:26年
  • 退職金支給額:1,800万円

勤続26年の退職控除額を求めます。

800万円 + 70万円 × (26年- 20年) = 1,220万円

課税退職所得金額を計算します。

(1,800万円- 1,220万円) × 1/2 = 290万円

以下の表から所得税の税率は10%、控除額は9万7,500円となります。

【所得税の税額表】
課税退職所得金額税率控除額
1,000円~194万9,000円5%0円
195万円~329万9,000円10%9万7,500円
330万円~694万9,000円20%42万7,500円
695万円~899万9,000円23%63万6,000円
900万円から1,799万9,000円33%153万6,000円
1,800万円から3,999万9,000円40%279万6,000
4,000万円以上45%479万6,000円

参考:国税庁「退職金と税」

所得税と復興特別所得税を計算します。

290万円 × 10% - 9万7,500円 = 19万2,500円
19万2,500円 × 2.1% = 4,042円(小数点以下切り捨て)
19万2,500円 + 4,042円 = 19万6,542円

住民税を計算します。

290万円 × 10% = 29万円

退職金支給額から所得税・住民税を差し引いた金額が、退職金の手取りです。

1,800万円 - (19万6,542円 + 29万円) = 1,751万3,458円

このケースでは、1,800万円の退職金に対する手取りは約1,751万円となります。

老後の生活費はいくら必要?

退職金の預け先は?年金と合わせた老後生活のシミュレーション

次に、老後の家計収支を見ていきましょう。公的なデータから、平均的な家計収支を紹介します。より詳細な試算をしたい人は、ねんきん定期便などを使用するとよいでしょう。

老後2000万円問題とは?

2019年に金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」が公表され、「老後は2,000万円必要」と話題になりました。これがいわゆる「老後2,000万円問題」です。老後に必要となる2,000万円の根拠は、モデルとなる高齢無職夫婦世帯の毎月の家計収支が約5万5,000円赤字になるというものです。5万5,000円の30年分は約1,980万円であることから、老後に約2,000万円が不足するとされました。この試算のベースとなった総務省「家計調査」の最新データを用いて以下、高齢夫婦世帯と単身世帯の家計収支のモデルケースを解説します。

高齢夫婦の家計収支

以下は、世帯主が65歳以上の2人以上無職世帯の家計収支です。

収入社会保障給付(年金)21万6,519円
可処分所得(手取り)20万5,911円
消費支出食費6万5,789円
住居費1万6,498円
水道光熱費1万9,496円
家具・家事用品1万0,434円
被服費5,041円
医療費1万6,163円
交通・通信費2万5,232円
教育費2円
教養娯楽費1万9,239円
交際費その他4万6,542円
消費支出合計22万4,436円
収支(可処分所得-消費支出)▲1万8,525円

参考:総務省「家計調査年報(家計収支編)2021年」

2021年のデータでは月あたりの赤字は1万8,525円と、老後2,000万円問題の試算(2017年のデータがベース)より減りました。この赤字額の30年分は666万9,000円と、2,000万円よりだいぶ少ない金額です。参考までに、同条件世帯の持ち家率は91.6%となっており、老後を賃貸住宅で過ごす予定の人は家賃分の見積もりも必要となります。

高齢単身者の家計収支

次に高齢単身者の家計収支を見てみましょう。

収入社会保障給付(年金)12万470円
可処分所得(手取り)12万3,074円
消費支出食費3万6,322円
住居費1万3,090円
水道光熱費1万2,610円
家具・家事用品5,077円
被服費2,940円
医療費8,429円
交通・通信費1万2,213円
教育費0円
教養娯楽費1万2,609円
交際費その他2万9,185円
交際費その他2万9,185円
消費支出合計13万2,476円
収支(可処分所得-消費支出)▲9,402円

参考:総務省「家計調査年報(家計収支編)2021年」

単身世帯の1ヶ月あたりの家計の赤字は9,402円で、30年分では338万4,720円となります。また、この調査では単身世帯の持ち家率のデータはありませんでしたが、住居費の数値から大多数が持ち家であると推測されます。老後を賃貸住宅で過ごす予定の人は、夫婦世帯同様に家賃分の見積もりが必要です。

一時金として考えておくべき支出

セカンドライフの生活費を年金だけでまかなうのは難しいことがわかりましたが、老後に必要なのは生活費だけではありません。どのような支出を考えておくべきかを解説します。

住居のリフォーム費用

退職後に現在の住まいに30年以上暮らす場合、屋根や外壁、水回りなどのリフォームなどが必要になります。その場合、数百万円の費用がかかることを想定しておきましょう。また、自宅で介護を受けるとしたら、介護リフォームも考えられます。なるべく費用を抑える方法や利用できる公的な補助金などを調べておくとよいでしょう。

家電の購入費

冷蔵庫やエアコン、洗濯機などは約10年ごとに寿命が来るといわれています。また、人によってはPCの定期的な買い替えも必要になるでしょう。家族の人数の変化などに伴って買い替えるケースもあり、ある程度の予算を考えておく必要があります。

高齢者向け施設の入居一時金

人によっては、老人ホームなど高齢者向け施設に入居することになるケースもあります。高齢者向け施設はさまざまで、入居時に一時金がかからない施設もありますが、数百万円から数千万円の一時金がかかる施設もあります。施設入居を考えている人は早めに入居先について調べ、費用の準備を心がけましょう。

子どもへの資金援助

子どものいる人の中には、住宅取得資金や教育費の援助をしたいと考える人も多いでしょう。子どもへ資金援助をする場合、自分の生活に支障のない範囲になるように予算を決めることが大切です。また、なるべく贈与税がかからない方法で援助しましょう。

退職金の運用方法

退職金の預け先は?年金と合わせた老後生活のシミュレーション

以上の内容を踏まえると老後に年金だけで生活費をまかなうのは難しく、一時的な支出も想定しなければなりません。退職金も大切な資金なので、手堅く運用していきたいところです。ここでは、退職金に適した運用について解説します。

退職金に適した運用方法とは?

退職金の運用はあまりリスクを取って、大きな損失を被る可能性のある方法は向きません。しかし、将来的に物価が上昇したときに上昇率より低い利回りで運用すると、資産の価値が目減りします(インフレリスク)。今は100万円で買えた自動車が将来120万円になってしまうと、100万円では足りなくなるというわけです。そのため、できれば2%程度の利回りで運用できると、インフレリスクに対応できるでしょう。

また、1,800万円の資産を運用せずに毎月5万円ずつ取り崩した場合、29年11ヶ月で底をつきます。しかし、年利2%で運用しながら取り崩すと45年10ヶ月と、大きく延命できるのです。

預貯金

退職金の運用では安全性が大切なため、定期預金などの預貯金は有力な預け先となります。ただし、長引く超低金利の影響でお金を増やすことはほとんど期待できません。もし物価が上昇していった場合、預貯金だけでは資産価値が目減りします。

使う予定のある資金は定期預金などに預け、余裕資金は多少のリスクを取って運用するような使い分けが必要でしょう。また、退職金向けの定期預金など、通常より金利が優遇されている商品もあるので調べてみましょう。

個人向け国債

個人向け国債とは国が発行する、個人を対象にした債券です。債券投資は発行体にお金を貸し付けて決められた利息の支払いを受け、期限には元本を返してもらう仕組みです。国債は購入して1年経過すると中途換金ができ、元本割れもありません。また、利率に0.05%の最低保証があり、一般的な定期預金の金利より有利です。

保険商品

退職金を一時払いの個人年金や終身保険などの保険商品で運用することもできます。一般的には保険料を一括払いして一定期間を経過してから解約すると、支払った保険料を上回る解約返戻金が受け取れます。通常、終身保険は一時払い保険料より高額の保険金額が設定でき、相続対策に有効です。

個人年金は一定の据え置き期間後に年金を受け取り、総受取額が支払った保険料を上回る仕組みです。預貯金同様に低金利のため円建ての商品ではお金はほとんど増えませんが、変額保険や外貨建て保険のような貯蓄性の高い商品もあります。

外貨預金

外貨預金とは、米ドルなど日本円以外の通貨で預ける預金のことです。ほとんどの通貨で日本円より高い金利が設定されているため、より多くの利息が期待できます。外貨預金は外貨ベースでは元本保証ですが、為替変動によって円換算で元本割れする可能性に注意が必要です。ただし、反対に為替差益を得る場合もあります。外貨預金はメインバンクで気軽に始められるため、わからないことを窓口で相談できる点も安心です。

投資信託

投資信託とは投資家から集めた資金を運用会社が株式や債券で運用し、その成果を還元する金融商品です。まとまったお金がなくてもさまざまな資産に運用できて、しかも運用をプロに任せられる点が投資信託の特徴です。投資信託の投資内容は商品ごとにさまざまで、大きなリスクを取りたくない人は比較的手堅い商品を選べます。ただし、元本保証ではないため、損をする可能性もあることを頭に入れておきましょう。リスクが低めの投資信託を選ぶと、インフレ対策や資産寿命を伸ばす効果が期待できます。

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まとめ

ほとんどの人は老後の生活費を年金だけでまかなうことは難しいため、退職金の有効活用は非常に大切です。退職金がいくらもらえるかを調べ、老後生活の収支を見積もるなど、必要資金を早めに把握しましょう。また、退職金は安全に運用するだけでなく、インフレリスクに対応することは資産防衛につながります。リスクを軽減した比較的手堅い運用手法を活用していきましょう。

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執筆者
松田聡子
ファイナンシャルプランナー
明治大学法学部卒業後、証券システムのITエンジニア、国内生保の法人コンサルティング営業を経て2007年よりファイナンシャル・プランナーとして独立。コンサルティングのほか、主な活動は企業型確定拠出年金導入企業へのセミナー講師、マネーサイトへの執筆など。年金・資産運用・保険などに精通、iDeCoやNISAなどの制度を活用した人生100年時代の資産形成をアドバイスしている。