退職金の所得税はいくら?計算方法やお得な退職金の受け取り方を解説
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退職金は給与と同じく所得に分類されるため、所得税や住民税の課税対象です。退職金は額面も大きいため、所得税がいくら引かれてしまうのか不安に感じている方もいるでしょう。また退職金は一括または分割での受け取りが選択できますが、受取り方法に応じて所得税の扱いも異なります。本記事では、退職金と所得税について詳しく解説します。
- 【この記事を読んでわかること】
- 退職金は所得税や住民税の課税対象
- 退職金にかかる所得税は計算で算出できる
- 退職金は「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで所得税が軽減される
- 所得税が軽減されるのは退職金の一括受け取り
退職金は所得税の課税対象
退職金とは退職によって勤務先から一時的に支給される給与であり、税制上「退職所得」にあたります。そのほか、生命保険会社から支給される退職一時金や解雇予告手当、退職後に支給された未払い賃金も退職所得です。退職所得は課税対象であるため、額面と手取りは異なります。
退職金にかかる所得税とは
所得税とは個人の所得にかかる税金であり、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた後の課税所得に税率をかけて計算されます。日本の所得税は累進課税であり、所得が多い人ほど税率が上がる仕組みです。しかし、退職金にかかる所得税は累進課税の適用外であり、所得税がなるべく低くなるよう優遇されてます。というのも、退職金は長年の勤務の対価であり、かつ退職後の生活保障を目的に支給されるお金だからです。
退職金は所得税以外の税金もかかる
退職金には所得税のほか、住民税や復興特別所得税がかかります。住民税はお住まいの市区町村ごとの税率で計算されるため、人によってかかる税金が異なる点が特徴です。復興特別所得税は東日本大震災の復興に必要な財源を確保するための特別措置であり、2013年〜2037年まで所得税にプラスしてかかる税金です。その税率は、所得税額×2.1%となります。
退職金にかかる所得税の計算方法
退職金からいくら所得税が引かれるかは、計算で求めることができます。ここでは、退職金にかかる所得税の計算方法をみていきます。
①退職所得控除を算出
まず算出するのは、退職所得控除です。退職所得控除は、勤続年数によって計算式が違います。
勤続年数=A | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×A (80万未満となる場合は、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(A−20年) |
勤続年数の端数は1年に切り上げ扱いとなるため、勤続年数が9年6ヶ月の人は10年として計算します。
②退職所得を算出
次に算出するのは、退職所得です。
退職所得=(退職金の収入金額(源泉徴収される前の金額)−退職所得控除額)×1/2 |
退職所得は分離課税となるため、基本は他の所得と区別して計算します。なぜなら、退職金は支給額が大きいため、他の所得と合算してしまうと所得税が大きく跳ね上がってしまう可能性があるからです。そのため、退職所得の計算式には1/2がかけられています。
役員等に該当する人は1/2が適用外
一方、役員として勤続年数が5年以下である人が、役員勤続年数に応じた退職手当などを受け取った場合、退職所得の計算式に1/2が適用されません。そのため、退職所得は単純に「退職金−退職所得控除」で算出します。なお、役員等には下記が該当します。
|
③所得税を算出
退職所得までが算出できたら、下記計算式で退職金の所得税が算出できます。
所得税=(課税退職所得金額×税率−控除額)×1.021 |
2013年より復興特別所得税が追加課税されているため、2037年までは1.021%の税率となっています。また、退職所得金額による税率は以下のとおりです。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | – |
195万円以上330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
退職金にかかる所得税の計算例
下記で、実際に退職金にかかる所得税の計算例をご紹介します。
勤続年数10年・退職金500万円の人の所得税
退職所得控除 | 40万円×10年 | 400万円 |
---|---|---|
退職所得 | (500万円−400万円)×1/2 | 50万円 |
退職金にかかる所得税 | 50万円×5%−0円×1.021 | 2万5,525円 |
上記勤続年数・退職金の場合、退職所得は50万円です。所得税の税率は5%であり、退職所得は195万円未満となるため控除額は0円となります。
勤続年数30年・退職金1,000万円の人の所得税
退職所得控除 | 800万円+70万円×(30−20年) | 1,500万円 |
---|---|---|
退職所得 | (1,000万円−1,500万円)×1/2 | 0円 |
退職金にかかる所得税 | 0万円×10%−9万7,500円×1.021 | 0円 |
上記勤続年数・退職金では、退職所得控除が退職金を上回るため所得税がかかりません。勤続年数が長いほど控除が大きくなるため、退職金の手取りが増えます。
勤続年数39年6ヶ月・退職金2,500万円の人の所得税
退職所得控除 | 800万円+70万円×(40−20年) | 2,200万円 |
---|---|---|
退職所得 | (2,500万円−2,200万円)×1/2 | 150万円 |
退職金にかかる所得税 | 150万円×5%−0円×1.021 | 7万6,575円 |
勤続年数39年6ヶ月は、端数を切り上げるため40年の扱いとなります。退職所得は195万円未満となるため、所得税の計算で差し引かれる控除は0円です。退職金が2,500万円と高額であっても、勤続年数が40年あることで、所得税は退職金のおよそ3%分だけです。
申告書の提出で退職金にかかる所得税が安くなる
退職金を受け取る場合、一般的に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。退職所得の受給に関する申告書は、退職金にかかる所得税の軽減制度適用のための書類です。提出しないと退職所得が「退職金額の収入金額×20.42%」で計算されるため、退職金にかかる所得税が軽減されません。また申告書を提出することで源泉徴収が受けられるため、支給時に所得税が天引きされます。何らかの理由で提出しなかった場合は、確定申告で払い過ぎた税金の還付が受けられます。
退職金の受け取り方と所得税
退職金の受け取り方は、一時金として「一括」、または年金として「分割」の2パターンです。一括と分割で受け取る場合、所得の分類と所得税の扱いが異なります。
退職金を一括で受け取る場合の所得税
退職金を一括で受け取る場合は、退職所得扱いです。分離課税であるため他の所得と合算せずに所得税が計算され、かつ退職所得控除が適用されるため、所得税の優遇措置が受けられます。
ただし、軽減制度が受けられるのは「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合のみです。
退職金を分割で受け取る場合の所得税
退職金を分割で受け取る場合は年金扱いとなるため、所得区分は雑所得です。雑所得は総合課税となるため退職金以外の所得も合算して課税され、退職所得控除は適用されません。その代わり、公的年金等控除が適用されます。公的年金等控除額は、年齢や収入額によって異なる点が特徴。下記は、退職金を含む雑所得の早見表です。
公的年金等の収入金額=A | 公的年金等に係る雑所得の金額 | |
---|---|---|
65歳未満の人 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | A−60万円 | |
130万円以上410万円未満 | A×0.75−27万5,000円 | |
410万円以上770万円未満 | A×0.85−68万5,000円 | |
770万円以上1,000万円未満 | A×0.95−145 万5,000円 | |
1,000万円以上 | A×0.95−195万5,000円 | |
65歳以上の人 | 110万円以下 | 0円 |
110万円以上330万円未満 | A−110万円 | |
330万円以上410万円未満 | A×0.75−27万5,000円 | |
410万円以上770万円未満 | A×0.85−68万5,000円 | |
770万円以上1,000万円未満 | A×0.95−145 万5,000円 | |
1,000万円以上 | A×0.95−195万5,000円 |
退職金の所得税がお得になるのは一括受け取り
退職金の所得税がお得になるのは、税金の軽減制度がある一括受け取りです。しかし、一括か分割どちらがいいかは状況によるため、メリット・デメリットを押さえた上で受け取り方法を検討しましょう。
退職金を一括で受け取るメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
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退職金を一括で受け取る最大のメリットは、退職金にかかる所得税が軽減されることです。一括で受け取る場合は退職所得扱いとなり、かつ「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで軽減制度が適用されます。一括で受け取っても、申告書を提出しないと所得税は軽減されないため要注意です。また住宅ローンなどが残っている人は、退職金で一気に清算できる点もメリットといえます。退職金でローンが完済すれば利息負担が減り、かつ老後にローンを払い続ける不安がなくなります。
一方、デメリットは使い過ぎてしまうリスクがあることです。近年は年金だけで不足しない生活を送ることは難しいため、退職金は使い過ぎないよう、計画的に使うことが重要です。
退職金を分割で受け取るメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
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退職金を分割で受け取るメリットは年金支給額が増え、かつ、お金の使い過ぎが防げることです。定期的に受け取れることで退職金が管理しやすくなり、生活費にあてる場合も使いやすくなります。
対してデメリットは、退職金が雑所得扱いとなるため、退職所得に適用される軽減制度が利用できなくなることです。年金として扱われるため毎年の年金支給額に応じて所得税や住民税が計算されるため、退職金を分割で受け取っているあいだはずっと課税されます。また年金支給額に上乗せされるため、支給時に天引きされる社会保険料の負担が重くなる点も要注意です。年金は社会保険料などが差し引かれて振り込まれるため、「ねんきん定期便」などに記載されている支給額がそのまま手元に入るわけではありません。国民健康保険料などの社会保険料は所得が大きくなるほど増額するため、退職金が加算されることで保険料も上がってしまいます。
退職金には所得税がかかるが、一括で受け取れば軽減される
退職時に支給される退職金は課税対象であるため、所得税や住民税がかかります。退職金の受け取りには「一括」と「分割」の2通りがあり、一括で受け取る場合には所得税の軽減措置が適用されます。ただし、一括受け取りで軽減措置が適用されるのは「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合です。一方、分割で受け取る場合でも、確定申告することで払い過ぎた所得税の還付を受けることができます。所得税の面で優遇を受けたい場合には、退職金の一括受け取りがおすすめです。しかし、退職金の受け取りが一括と分割どちらが良いかは状況によって異なります。そのため、まずは退職金と所得税を算出し、かつ退職金をどう利用するかも考えた上で退職金の受け取り方法を検討してみましょう。
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